さまざまな原因があって、その原因が絡み合うなかで、プロジェクトが“デスマーチ”とならざるを得ないのは、往々にして社内での“コミュニケーション不足”という事態が発生してしまうからだ。しかし、これが複数企業間で、しかも国籍や文化が異なる国と国の企業間で進行するプロジェクトだとしたら、コミュニケーション不足はどうやって解消していけばいいのだろうか――。
この7月にミラクル・リナックスでは、それまで「MIRACLE LINUX」というブランドで販売していたLinuxディストリビューションを「Asianux」に名称を変更して9月から販売することを発表した。このAsianuxとは、日本のミラクル、中国のRed Flag Software、韓国のHaansoftが共同で開発するLinuxディストリビューションであり、そのプロジェクト名でもある。
ミラクルで取締役最高技術責任者(CTO)を務める吉岡弘隆氏は、自ら開発に携わるAsianuxについて「奇跡に近い」と語る。2003年12月から開発が始まったAsianuxは、半年後の2004年6月に正式メジャーバージョン「Asianux 1.0」、2005年8月に「Asianux 2.0」、そして2007年9月に「Asianux 3.0」と順調にメジャーバージョンアップを重ね、プロジェクトは続いている。
スケーラビリティがなかったLinux
吉岡氏はもともと、日本オラクルに在籍、1995〜1998年の3年間は、米Oracleで「Oracle 8i」の開発を行っていた経験もある。その後1999年頃に、日本オラクルで「エンタープライズ向けのLinuxディストリビューションを開発する」という話が持ち上がり、そこから、ミラクルが創設されることになり、その立ち上げメンバーに吉岡氏も加わることになったのである。
その頃のLinuxといえば、カーネルが2.2であり、処理方式として現在では当たり前となっている「対称型マルチプロセッシング(Symmetric Multi Processing:SMP)」をサポートするかどうかといった議論がなされているところで、「スケーラビリティはなかった」(吉岡氏)という代物だ。それでも「そこそこ安定していたから、ウェブサーバや部門のファイルサーバとして利用されていた」(同氏)程度にすぎなかったのである。
そうした時代状況の中で、ミラクルが開発しようとしていたエンタープライズ向けディストリビューションは、Oracleを導入しやすい、商用のエンタープライズ向けというものとして企画されたが、当然そういったディストリビューションは、世界のどこにも存在していなかった。