静岡大学は3月15日、学生や教職員約1万3000人が使用する学内情報基盤システムを全面的にクラウド化し、運用を開始したことを発表した。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)とNTT西日本静岡支店がシステムを構築している。
国公立大学として、学内に存在するサーバ約850台、業務用端末約700台をクラウド化する初めての事例だという。学内情報システムを全面的にクラウドコンピューティングに移行することで、従来のシステムと比較して2013年度までに消費電力90%以上、IT投資コスト80%以上の削減が可能になるとしている。
静岡大学は2007年からグリーンITや情報セキュリティ管理システム(ISMS)、事業継続計画(BCP)対応、法令順守(コンプライアンス)、コストの最小化、日本版SOX法対応など、さまざまな課題に対応したシステムの刷新を検討してきたという。
2009年までの3年間に環境負荷や投資コストを詳細に調査し、大学内ネットワークに接続されている情報機器はPCが約7000台、ウェブサーバ552台、研究開発用サーバが300台以上存在し、サーバや端末は組織ごとに調達しているためリソースがうまく活用できていないことがわかったとしている。
IT機器がキャンパス内に分散設置されていたため、大容量空調設備や大規模受電設備、多数の無停電電源装置(UPS)などが存在し、運用環境でも効率化できることが判明し、IT機器全体では全学の15%に相当する、年間233万キロワット時(kWh)の電力が消費され、885トンの二酸化炭素(CO2)が排出されていることが推定できたとしている。そのため、静岡大学は学内情報システムすべてをクラウド化することを決定し、2009年11月からプロジェクトを開始したという。
プロジェクトではまず、サーバのクラウド化を目指して、キャンパス外のデータセンターに静岡大学専用の「プライベートクラウドコンピューティングセンター(PRCC)」を設置。キャンパスとは10Gbpsの光ケーブルで接続している。メールや認証、シンクライアント制御、人事、給与、会計、学務、遠隔ウェブなどの基幹系システムを中心に学内で稼働していたサーバやスーパーコンピュータなど、すべての機器を移行した。従来のサーバ室、大型のエアコンなどはすべて廃止している。
また、ウェブサイトやSNS、ブログ、研究用サーバなどは一般向けサービスを行う「パブリッククラウドコンピューティングセンター(PBCC)」を想定し、処理能力や情報セキュリティなど多くの項目で調査、検証して「Amazon EC2」など世界中の数十種類のクラウドサービスから最適なものを選択して使用する形態に変更したという。費用はサーバ1台で月額2000〜4000円となり、従来の10分の1から50分の1以下のコストが実現可能となるとしている。2013年までに学内のサーバ約500台をPBCCに移行する予定いう。
同プロジェクトは、学内にある7000台のPCのうち1100台をシンクライアントに置き換えるとともに、使用時間以外はシンクライアントを完全に電源オフにする装置を設計、運用も確立し、年間総合電力を低減するように工夫し、PCのクラウド化も進めたという。2013年までにシンクライアントは2000台にまで拡張予定で、残りの5000台は省電力PCに随時移行する。
プロジェクトではまた、教職員全員のPCデータのハードディスク内のデータをすべて移行できるクラウドストレージを整備し、ストレージのクラウド化も推進したという。現状では1人あたり20Gバイトを割り当てているが、2013年までに80Gバイトまで拡張する予定としている。静岡大学に一度でも在籍した教職員は退職、転勤後も続けて、クラウドストレージを利用でき、生涯を通じて自身のデータを一元管理できるという。
静岡大学は、クラウドコンピューティング技術は部分的な適用ではなく、情報基盤システム全体に導入することでその効果が発揮されると説明する。今回、PRCCとPBCCに移設することでサーバは限りなくゼロに近く、PCはシンクライアントと省電力PCの適用で2013年における年間電力やCO2排出量などを推定計算した結果では、年間消費電力とCO2排出量は施策実行前に比べて90%の削減効果が期待できるとしている。
今回実現したさまざまな技術や運用は、そのまま企業や自治体にも適用可能だという。今後、静岡大学ではクラウドコンピューティングの導入を支援する「日本アカデミッククラウドコンピューティング支援センター」を設立し、プライベートクラウドとパブリッククラウドの棲み分け、パブリッククラウドサービスの選定や運用支援を行っていく予定だとしている。