ある経営者の回想(前編)--経営に必要なのは何よりもバランス

森川徹治(ディーバ)

2009-07-29 08:00

 経営とは何だろうか? 経営者としてもまだまだ修行中の身である以上、悟りのような答えにはたどり着いていない。しかし、幸いにも経営を実践する機会を得ることで、体験的に理解してきたことがある。

 それは、古くから人々に語り継がれてきたものであったり、教科書や書籍に記述されているものであったりと、特に目新しいことではない。言葉としては知っていたことばかりである。しかし、筆者自身のカンが悪いせいか、経験を通して、その意味を体感しないと理解することができなかったことも多い。

 一方、「連結経営」というものを考え、理解していく上では、この体験が少しは役に立っていると感じている。もちろん、筆者自身が(心意気はあっても)まだ、グローバル連結経営そのものを実践しているわけではないので、視点としてはまだまだ未熟である。

 しかし、実際に連結経営を実践されている方々のお話を聞く上で、わずかながら納得感に近いものを得られる背景となっている。今回は、連結経営を進めていく上で経営判断の軸となる財務情報を強く意識した経営の視点について、その意義を個人的に理解してきた経緯を中心に、話を進める。

バランス?

 筆者が会社を創業して間もない頃、さるグローバル企業の役員の方と食事の機会を得た時の話である。圧倒的な経験、知見のギャップを強烈に感じる中、「経営とは何でしょうか?」と禅問答のような言葉を発してしまったことがある。その時、ほとんど間を置かず、「バランスです」と答えが返ってきたが、正直な話、ピンとはこなかった。以来、「バランスとは何だ」と自身に問い続けることになる。

 (バランスを意識すると、物事を考える際に、対局にあるものは何かを考える。それによって、考えるべき事象がより明確になり、かつバランスを持った判断ができる。人間の成長とは、「客観性の獲得と社会性の獲得である」と考えるようになったのがいつの頃だったかは定かではないが、基本的に主観が強い人間にとって、対局を考えるという視点は、この客観性の獲得におおいに有効である)

現金収支というバランス

 経営が意識しなければならないバランスは多軸である。顧客、取引先、社員、株主、社会などさまざまな利害関係者(ステークホルダー)とのバランスを取り、事業としての持続的発展を実現していく。しかし、会社の規模や成熟度によって、取ることのできるバランスはかなり異なる。特に、体力の小さい会社にとって最重要のバランスは現金収支である。身近なところで言うと、家計簿である。

 事業活動はキャッシュという経済の血流が弛まず循環することで成立する。逆に、血流が滞ると会社は死ぬ。体力のない会社とは、キャッシュの“調達力”が小さい会社である。調達力とは、残高だけではなく、借り入れを含めたものであるが、ファイナンスの世界で、レバレッジが何十倍とかいう話がある一方で、普通の会社にとっては、担保となり得る換金(売却)可能資産のレバレッジ1倍を借り入れすることすら現実には大変なことである。

 よって、信用の原資となる資産も現金も持たぬ会社には、とにかく現金をショートさせないことに注力することになる。単に売り上げを上げればよいのではなく、現金回収まで意識して現金収支のバランスを確保する。

“利益”と現金収支のバランス

 継続的に収益を上げ続けると、次第に体力がついてくる。そうなると、ようやく会計上の利益というものに関心が向くようになる。この段階で初めて、会社としての体を成す。というのも、税金の支払いを通して、社会とのつながりを意識するようになるからだ。

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