linux-nextへの統合
「Jamesのツリーにはいりました」――
2009年2月12日、TOMOYO Linuxのメーリングリストに送られたこの1行は、静かに、しかし瞬く間に日本のLinuxコミュニティの間に広まった。
これは、国産セキュアOSであるTOMOYO Linuxが、セキュリティモジュールのメンテナ(管理者)であるJames Morris氏のリポジトリ(ソースコード管理データベース)に統合されたことを知らせるものだった。
そして、このメールは、Linuxカーネル本体へのメインライン化へ向けて、TOMOYOがラストスパートをかけたことを意味していた。メインライン化とは、Linuxの標準となるカーネルのソースコード(メインライン)に統合され、その一部となることだ。
2月13日、TOMOYO Linuxは、次期バージョンとなるlinux-nextのリポジトリにも統合された。今後、テストとバグの修正を終えた後、順調に進めばLinus Torvalds氏のリポジトリに統合されて、2009年7月にリリースされるバージョン2.6.30で、Linuxカーネルへの統合が実現される見込みだ。
TOMOYO Linuxは、NTTデータが開発した「セキュリティ強化Linux」として、2005年11月11日にSourceforge.jpにオープンソースとして公開された。Linuxの標準カーネル(2.4/2.6)をベースにポリシーの自動学習機能を独自に備えた強制アクセス制御機構(Mandatory Access Control)を実装している。今回、メインライン化が実現すれば、Linuxセキュリティ強化の実装としてすでに統合されているSELinux、SMACKに続き、TOMOYO Linuxは3番目となる。
しかし、TOMOYO Linuxは最初からメインライン化を目指していたわけではない。
「その方針を転換するきっかけとなったのは、Linuxコミュニティの方々からの強力な後押しと支援があったおかげだった。コミュニティの存在なしに今回の成果を語ることはできない」と当時を振り返り、TOMOYO Linuxのプロジェクト・マネージャでNTTデータ 技術開発本部の原田季栄氏はいう。
すべてはCE Linux Forum「Japan Technical Jamboree」から始まった
ことの発端は、2006年12月に行われたCE Linux Forum(Consumer Electronics Linux Forum)の技術検討会でTOMOYOが取りあげられ、原田氏が発表したことに始まる。ソニーやパナソニックが中心となって発足したCE Linux Forumは、オープンソーススタイルでLinuxやその周辺のOSSの組み込み機器用途での活用を目指すワールドワイドなフォーラムだ。企業や地域、業種の壁を越えたコミュニティ活動を促進している。
ところが、「Japan Technical Jamboree」と呼ばれるその技術検討会でTOMOYO Linuxの紹介が終わったとたん、参加者から次々と寄せられたのは、質問ではなく「ぜひ、メインライン化に挑戦して欲しい」との要望だった。