独立テスト機関から見る企業セキュリティの「今すぐそこにある脅威」(後編)

吉澤亨史

2010-08-20 08:00

前編はこちら

 パネルディスカッションの後半では、来場者からのアンケートをもとに「企業が取るべきセキュリティ対策のレベル」をテーマに議論が交わされた。

 まずはNSS LabsのプレジデントであるRick Moy氏が、組織がセキュリティにどの程度投資すべきかは、測定が重要であると説明。しかし、測定の図式を作成することが難しく、現時点でのセキュリティの効果を測定する必要もあるが、脅威は常に進化しているため把握できないのが現状でもあると述べた。

Maik Morgenstern氏 AV-Test.orgでCTOを務めるMaik Morgenstern氏

 AV-Test.orgの最高技術責任者(CTO)であるMaik Morgenstern氏も、「これが決め手」という万能なものはないと明言。セキュリティではプロセスが重要であり、何を保護するのかを明確にし、それが守られているかどうかを評価することが重要であると主張している。

 AV-Comparatives.orgのバイスチェアマンであるPeter Stelzhammer氏は、セキュリティ製品は価格だけでなく好みがあるのも確かだと述べ、システム管理者や最高情報責任者(CIO)、セキュリティ担当者は必ず置く必要があるとした。また、ネットに接続するのは本当に必要なものだけにすべきと同氏は主張している。

 これに対しMoy氏は、PCの個人化やスマートフォンの登場など、自宅のものを持ち込んだり個人の持ち物で社内メールを参照したりする現状を指摘して、確かに脆弱性や攻撃を受ける範囲は大きくなるが、生産性を向上するためにはネット接続の自由度は確保すべきと反論する。

 パネルディスカッションのモデレーターを務める、トレンドマイクロCTOのRaimund Genes氏も、従業員が息抜きにFacebookにアクセスするケースや、PS3で開発するケースもあり、データ漏洩のリスクは防ぎようがないのが現状と説明、企業はそれを認識すべきであるとした。

Raimund Genes氏 トレンドマイクロCTOのRaimund Genes氏

 同氏によれば、事実米国では個人用PCの持ち込みを許可しており、OSもLinuxやMac、Windowsを選べるようにしており、業務が終わったら自由にしてよいという企業も多いという。ただし、Windowsは攻撃を受けやすいため、セキュリティコストを減らすためにクラウドへの移行が活発だと説明し、これからは守るべき場所はOSでなくブラウザになるとGenes氏は述べた。

 またGenes氏は、仮想化によりPCをイメージ化することで、マルウェアをだますことができるかもしれないと説明する。しかし業務で使用しているイメージはリカバリが難しく、セキュリティが悪影響を及ぼす可能性もあるという。リスクは拡大していき、将来はセキュリティソリューションそのものを狙う攻撃が出てくるだろうとGenes氏は予測する。状況は悪化する一方なので、セキュリティベンダーがしっかりしないと守れなくなるとも述べている。

 仮想化環境のイメージであっても、業務用のデータを別に管理しておくことで、たとえマルウェアに感染しても再インストールにより復旧が可能になると述べたのはMoy氏だ。データを別に管理し、さらに暗号化しておけばノートPCなどを紛失したときでもデータの漏洩を防げるという。Stelzhammer氏も、仮想化については無償のものも多いが、サポートも重視しなければならないと付け足している。

 Morgenstern氏は、セキュリティソリューションは検出率だけで選ばず、サポートや機能を重視すべきとし、その際に独立系テスト機関のテスト結果は大いに参考にできるとしている。また、企業向けに特化した特定のテストも行えるため、その企業のどこが弱いか、守るために何が必要かを提案できるメリットがあると述べた。

 Moy氏も、この意見に同意し、テスト結果を指標とすることで、製品ごとの個性が際立つため、自分の企業に特化した保護が可能になると説明。特にネットワークセキュリティ製品は選択を誤る可能性が高いため、間違った決断をしないためにもテストは有効とし、10万ドル単位の大きな投資をするなら、その2〜3%のコストでテストを行うべきと主張している。

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