トレンドマイクロが開催したプライベートカンファレンス「Direction 2009」では、同社社長兼CEOのEva Chen氏が基調講演に臨んだ。
Chen氏に続いて基調講演を行ったのは、ジェイティービー(JTB) 常務取締役 経営企画担当・事業創造担当・IT企画担当 志賀典人氏。
「JTBグループにおける経営改革とIT戦略について〜総合旅行産業から交流文化産業への進化〜」と題し、旅行業の全体像とともに、JTBグループの経営改革の方向性、今後の長期IT戦略についての基本的な考え方、IT投資についての意思決定プロセスのあり方などを講演した。
旅行業界を変えた3つの要因
JTBの属する旅行業界を取り巻く環境は激しい変化にさらされている。志賀氏はまず、旅行業に大きな影響を与えた3つの要因を紹介した。
- 人口動態
- ITの進化
- グローバル化
1の「人口動態」では、少子高齢化が国民の総活動量を減らし、それが経済、ひいては人の移動、つまり旅行の市場をも縮小させている。また、2の「ITの進化」では、インターネットの普及により、旅行業務もウェブ経由が増加。既存事業が相対的に競争力を弱めている。さらに、3の経済の「グローバル化」によって、国境を越えた人の移動が盛んになった結果、同社の競合相手は海外にまで広がった。
このような変化に対応するため、JTBは2006年に「事業ドメインを再定義」(志賀氏)した。それまではグループ会社を束ねたJTB本体が市場に対処していく構造だったが、分社化を実行し、持ち株会社の下に位置づけられた各事業会社が、それぞれがより直接的に業務に当たるよう体制を改めた。
「旅行業界全体では圧倒的なシェアを持っているが、ネット経由の販売ではそうではない。専門性を活かし、市場ごとに対応できるよう再編した」(志賀氏)
JTBの情報システム「TRIPS」
旅行業界のIT化の流れを振り返ると、まず、鉄道、航空事業者が、巨大な予約発券システムを構築したことにさかのぼる。一方、観光業界では、ホテル、旅館、飲食店など中小規模の事業者が多く、かつては連絡の手段は電話やテレックスなどが中心で、台帳管理も手作業だった。
同社のような旅行事業者は、80年代からシステム導入により業務の自動化と省力化に着手し、一定の成果を上げている。
「70年から90年までの間に物価は2.9倍に上昇しているが、同じ時期に当社の取扱高は4.8倍に、1人当たりの生産性は4.9倍に拡大している。これはコンピュータの効果だろう」と、志賀氏は分析する。
現行のJTBの情報システムの中心は、予約、発券、在庫管理システム「TRIPS」だ。国内外のパッケージツアー、鉄道、航空などの運輸機関の利用、宿泊などを「商品」として取り扱う。
たとえば「保有在庫数」は、国内のホテルや旅館の場合、1日あたり約9万5000室、パッケージツアーのコ−ス数はエースJTB(国内)が約3万件、ルックJTB(海外)が約10万コースだ。1日のトランザクション数は約219万件に達する。(これらの数値は2008年の実績)