小さな改善を積み重ねたリコーのマルチチャネル戦略(後編) - (page 2)

小林正宗(月刊ソリューションIT編集部)

2005-05-24 11:37

顧客への細かな配慮を NetRICOHに蓄積

 構築期間がわずか半年のプロジェクトは、毎日が山場だったという。プロジェクトの進捗とともにメンバーは増えたとはいえ、大半は業務部門の出身者。システムの仕様書の書き方やITの仕組みなどはほとんど手探りだったという。

リコー 販売事業本部 CRMセンター ダイレクト マーケティングセンター 花井厚所長

 花井氏は「NetRICOHは、決して万全のスタートだったとは思いません。なにしろリコーとしても初めての取り組みばかりだったため、メンバーがどれだけ議論しても分からないことが多かったのです。そこで、まずは小さくスタートをして、修正を加えることでNetRICOHをブラッシュアップしようとしたのです」と打ち明ける。

 NetRICOHのカイゼン活動は、地味なものだった。

 たとえば、顧客が商品を注文する際に、上司や責任者の承認が必要になる場合がある。商品名や購入日時を記したワークフロー機能を提供することで、流れを効率化した。また、購入に社内の稟議が必要なケースに対応するため、見積書を表示・ダウンロードできる機能を追加。納品日も、最大2カ月先まで指定できるようにした。この他、企業の購買部門が各部門のコピー用紙やトナーの使用状況を分析しやすいよう、購入した注文データをCSVでダウンロードできる仕組みも用意。リコーは、これらすべてを無料で提供している。

 「とにかく、小さなことでも、『地道に』『1つずつ』『コツコツと』積み上げたことが成果に結びつきました」(花井氏)という。これを4年間繰り返したことで、NetRICOHの導入効果は右肩上がりで上昇。かなりの額の投資をしたにもかかわらず、3年を待たずに投資回収にこぎつけた(図6参照)。

図6 NetRICOHの売上の推移

営業マンの負担を軽減し コスト削減も実現

 NetRICOHは、業務コストと販売コストの削減に大きく貢献している。従来の販売スタイルだと、電話1本で受注処理が完了するまで、約300〜420円のコストが発生していた。これがWebに置き換わった場合、コストはほぼゼロになる。その上、コールセンター業務の負担も低減できる。また、ピーク時に電話がつながらない場合の機会損失を回避し、伝票記入などの営業マンの付帯業務を削減できた。Webからの依頼を受けて営業マンが顧客先へと赴いた場合、成約率が2倍、リードタイムが半減したというデータもある。

 一方で、販売機会が増えたことで、売上が伸びた側面もある。たとえば法人顧客の場合、休日や夜間の発注が少ないと予想していたが、実際には全体の2割近くがそこに集中していた。また、リコー以外の会社のOA用品や事務用品をNetRICOHに掲載したことで、売上が20%向上したという。

 「Webサイトでは、このような情報をほぼリアルタイムに収集できるため、データに基づき素早い対応が可能となりました」(花井氏)という。たとえば、同じページを何度もクリックしている傾向を発見すると、すぐにその原因を探る。そして、画面遷移が複雑だと分かれば、すぐに改定するといった具合だ。

利用しやすいサイト目指し UIの改善を重ねる

 NetRICOHは、2005年4月にバージョン8となる。細かなものを含めると、数え切れない改定を繰り返してきた。花井氏は「CRMとは、詰まるところ、お客様との関係をいかに丁寧に構築していくかに尽きると思います。地道に、コツコツ、一つひとつを大切にしなければ実現できません。つまり、CRMは一朝一夕には実現しないのです」と言い切る。リコーの場合、経営層が強力にコミットした点と、日々の業務の改善活動が社員の隅々にまで浸透している企業文化が、成功を後押ししていると言える。

 ダイレクトマーケティングセンターでは、現在NetRICOHのユーザーインタフェースに注目している。IA(Information Architecture)の視点から、顧客のクリック動向や画面遷移のデータを収集。アプライアンス推進室の協力を得ながら、さらにカイゼンを重ねている。

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