歴史をひもといても、文化の発展と制度に密接な関係があることがわかります。たとえば、茶道のようないわゆる「日本的な文化」は戦国時代末期に醸成されていますが、それらは法の適用外のエリアが中心となっています。千利休がいた堺などもそのような場所で、大名がいない自治都市です。“日本の美意識”のひとつであるわび・さびは法の適用外で育まれた歴史があると解釈しています。16~18世紀ごろまでの日本の近世に興った「楽市楽座」も同じです。ルールを取り払った場所を提供することで文化が育ち、経済が発展しました。織田信長が占領した土地はGDPが跳ね上あがるのですが、それはこうした政策によるものなのです。
人口密度を上げる
--歴史的、統計的な原理原則を企業経営にも当てはめて考えるということですね。制度やルールを減らす以外にも必要なことはありますか。
整理すると、まず1つ目がどんな仕組みをとりいれるかを考えるのではなく、制度やルールを極限まで減らすこと。2つ目は(イノベーションは集団によるクリエイティビティの蓄積によるものだと認識し)コミュニケーションの重要性を認識することです。発明などで新しい価値あるものが生まれたとしても、それが流通しなければ広がりません。効果的なコミュニケーションが起こるためには、意図的に人口密度を高くする必要があると考えています。
世界四大文明などから現在も、文明や経済が北半球に偏る南北格差があります。これは、北半球のユーラシア大陸が横に長いためだという説があります。進化生物学者のJared Diamond氏が銃、病原菌、鉄の3つの流通を世界の富が偏在している要因だという説を提唱していますが、北半球は農業革命を起こせた緯度が横に長く続いており、人口密度の高い(道や食料がある)ところがつながった結果、今の世界があるといいます。ヨーロッパから日本までシルクロードも同じ緯度で都市が横につながっていますよね。天才が何かを発明しても、それが広まり普通のことにならないと次の発明につながらないのです。
参加者全員のメモを取りやすくした「メモデスク」など、コミュニケーション活性化する仕掛けが多いオフィス
企業においても、意図的に人口密度を上げて積み上がりやすい状態を作ることが重要です。
プロセスを抽象化する
コミュニケーションを通じ、うまくいった出来事を抽象化して共有することがポイントです。抽象化は非常に重要です。たとえば「リンゴが落ちる」ことは情報として誰でも知っていますが、それをニュートンが万有引力として抽象化しました。抽象化することで活用法が広がったのです。
抽象化がうまくいかなかったときは、成功したことや発見したことのプロセスを共有します。プロセスも同様で、共有することで次の成功に生かせますし、どんな業種でも役立ちます。