同プロジェクトは2016年に、ITや医薬、神経科学の研究者ら向けに6つのテクノロジプロジェクトのプロトタイプ版をリリースした。研究者らからのフィードバックは、成果物を洗練させていくために活用される予定だ。
ハードウェアやソフトウェア、データセット、プログラミングインターフェースなどを含むこれらツールの成熟度はさまざまだ。一部は完全に機能しているものの、一部はまだ開発作業が残っている。
Amunts氏は、「私のような神経科学者は、長い年月をかけて複数の手法を生み出してきているが、簡単に使えるような成熟度の高いものは生み出せていない。また、そういった手法を実現するためのリソースも持ち合わせていない。われわれは神経科学者であり、素晴らしい論文を書き上げることを期待されているが、ウェブサイトをユーザーフレンドリーにしたり、使いやすくしたりするところまでは手が回らない。これはテクノロジの問題であり、大学ではこれらを両立できないのが常なのだ。ここには、そのような問題に対応できるユニークな環境がある。具体的には、われわれはサービス面をサポートし、開発されたこれらツールの使用を支援するホットラインも用意している」と述べている。
テクノロジを使用して脳の内部を再構成することで、2種類のサブプロジェクトに独自のブレークスルーをもたらしたいという期待がある。例えば、ニューロモーフィックコンピューティング分野では、エネルギー消費が低く、性能の高いコンピューティングインフラである脳からインスピレーションを得ることで、今日のフォンノイマン型アーキテクチャを置き換える低消費電力かつ高性能なアーキテクチャが生み出されるという期待がある。同様に、(SpiNNakerといった)既存のニューロモーフィックプラットフォーム上で脳の各野のシミュレーションを行うことで、その働きについてのさまざまな知見が得られるという期待もある。また、例えばニューロモーフィックコンピューティングによって、脳がさまざまな状況に適応できる仕組みを解き明かせる可能性もある。
Amunts氏は「われわれは、モジュラーコンピューティングが適切かつ非常に重要な知見だと捉えている。既にわれわれは、CPUでの実行に向いている作業がある一方で、GPUでの実行に向いている作業もあるという点を理解している。ニューロモーフィックコンピューティングについて考えた場合、(中略)これはある種のアプリケーションに特化したものとなる。学習能力や適応能力など、学習が長期間に及ぶものの、時間的要求が厳しいアプリケーションは、そうした能力に長けたニューロモーフィックチップに委譲することが考えられる」と述べている。
神経科学とテクノロジ研究の双方を組み合わせるというHBPプロジェクトのやり方は、意識という、脳の持つ最大の謎を解明できる可能性がある。意識がどのように機能しているのかを説明する理論は数々あるが、そのメカニズムについては実際のところ、ほとんど分かっていない。