海外コメンタリー

脳を模したチップ「TrueNorth」でコンピューティング革命を模索するIBM

Conner Forrest (TechRepublic) 翻訳校正: 石橋啓一郎 2015年11月09日 06時00分

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 この数十年の間に、コンピューティングの分野では無数の技術進歩が起こったが、従来のコンピュータアーキテクチャモデルで、大量のデータ処理を伴う今のコグニティブコンピューティング時代に対応できるのか、疑問を呈する人も出始めた。

 IBMの研究者は、この問題に10年以上も取り組んでいる。IBMのDharmendra Modha氏は、同氏のチームが今とは違う形のコンピューティングを追求する方法を模索し始めた日を正確に覚えているという。2004年7月16日だ。

 「『ENIAC』やフォン・ノイマン氏のアーキテクチャに端を発する、人類文明が1946年以降追求してきたコンピュータアーキテクチャは、その逐次処理的な性質が持つ限界に近づき始めていることが次第に明らかになってきた」とModha氏は言う。

 そうして、新たな種類のコンピューティングを支える新たな技術を開発するためのIBMの10年間の取り組みが始まり、それが新しいチップ「TrueNorth」へとつながった。Modha氏は2006年に、コグニティブコンピューティングをテーマにしたAlmaden Instituteで座長を務めた。その後2008年には、IBMとして研究提案書を提出し、米政府の国防高等研究計画局(DARPA)が進めるSyNAPSEプログラムから助成金を獲得している。

 同氏のIBMのチームは、合計で6000万ドル近い政府の研究資金を確保したあと、2010年に会合を開き、プロジェクトの焦点の絞り方と、脳に似た仕組みのチップ実現に向けてどう取り組みを進めるかについて決断した。このコンセプトは、ニューロモーフィックコンピューティングと呼ばれている。

 従来のコンピューティングアーキテクチャでは、メモリとプロセッサは完全に別のものだ。プロセッサは、メモリにアクセスしながら計算手順を実行する。これは二分法的なアプローチだ。しかし脳内では、メモリと計算処理は互いに絡み合っている、とMIT CSAILのNir Shavit教授は言う。

 同氏によれば、脳の中では、ニューロンがメモリデバイスと計算デバイスの両方を兼ねている。ニューロンは神経細胞であり、シナプスはニューロンが互いに通信することを可能にする構造だ。シナプスは、入力に応じて強化されると考えられている。

 「従って、この計算ユニットが次に発火するときには、発火が強くなったり弱くなったりする。われわれはこうして計算の仕方を学習する」とShavit氏は述べている。「ニューロモーフィックコンピューティングの前提は、このパラダイムを実現することだ」

 最初のチップは、2011年8月に発表された。このチップはミミズの脳ほどの規模で、256のニューロンを持つ。チップには2種類あり、一方は6万4000のシナプスを、もう一方は25万6000のシナプスを持っていた。その3年後、最新型のチップが科学誌「Science」の表示を飾った。このチップは、1億のニューロンと、2億5600万のシナプスを持っている。Modha氏はこれを、「文字通り、補聴器と同じ電力しか消費しない、切手サイズのスーパーコンピュータ」と呼んだ。

 そこから、IBMは人間の手のひらサイズのシングルチップボードを作り、その後これを、以前から作っていたソフトウェアエコシステムと徐々に統合した。


 このチップの特徴的な機能の1つに、チップをタイル状に繋げられるということがある。つまり、2つのチップを縦または横に並べて配置することで、通信アーキテクチャを別に用意しなくても通信することができる。また、主なセールスポイントの1つは、電力消費量が低いことだ。TrueNorthチップの電力消費量は70ミリワットだが、1秒あたり46億回のシナプス演算を行う能力を持っている。

 Modha氏はこのチップの応用分野について、IBMはコグニティブコンピューティングに力を入れるようになっており、同氏は特にネットワークのエッジに位置するIoTに興味があると述べている。IBMの予想では、センサを持つデバイスの数は、2020年には人口の30倍近くになる。これを念頭に、同氏はこれらのセンサに計算能力を与え、エッジにインテリジェンスを組み込みたいと話した。

 「本当のところ、われわれのビジョンは、認知力を持つ惑星を作ることだ」と同氏は言う。

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