海外コメンタリー

「脳からヒント得た」スパコンでIBMが米ローレンスリバモア国立研究所と連携--その展望は?

Danny Palmer (ZDNET.com) 翻訳校正: 石橋啓一郎

2016-04-05 06:30

 人間の脳は世界最強のスーパーコンピュータだと言われているが、ある計算機科学の研究者チームは、脳の仕組みからヒントを得た、ニューラルネットワークを基盤とする新しいスーパーコンピューティングプラットフォームを構築しようとしている。

 米国のローレンスリバモア国立研究所(LLNL)は、カリフォルニア州にある、米国の核抑止政策の安全性、安全保障、信頼性を確保することを目的とした連邦政府の研究機関だ。同研究所は、IBMと協力して「過去に類を見ない」脳からヒントを得た深層学習のためのスーパーコンピューティングプラットフォームに取り組んでいる。

 このニューラルネットワークには、IBMのニューロシナプティックコンピュータチップ「TrueNorth」が使われる。このプロセッサは、従来のプロセッサよりもパターン認識や感覚処理などの認知的な処理を効率的に行えるように設計されたものだ。

 1つのTrueNorthプロセッサには、100万個のデジタルニューロンを構成する形で54億個のトランジスタが組み込まれており、それぞれが2億5600万個の電子的シナプスを通じて互いに通信できるようになっている。この仕組みが高い処理効率の鍵だ。

 プラットフォーム全体は合計16個のTrueNorthチップから構成されており、1600万個のニューロンと、40億個のシナプスに相当する処理能力を持っているが、電力はわずか2.5ワット、つまりタブレット1台ほどしか消費しない。

 LLNLの兵器シミュレーションおよびコンピューティング担当プログラムディレクターであるMichel McCoy氏は、「これらの脳からヒントを得たプロセッサの消費電力が低いのは、IT業界の期待や、エクサスケールコンピューティングに向けて、将来のシステムのすべてのコンポーネントで消費電力を低減するために進めている創造的アプローチを反映したものだ」と述べている。

 LLNLでは、この新システムを国家核安全保障局(NNSA)が抱えているミッションに利用できる「新たなコンピューティング能力を模索する」ために使用する。このNNSAのミッションにはサイバーセキュリティや米国の核兵器管理、また理論的には、世界的な核兵器削減のための協定の管理が含まれる。

 この取り組みは、NNSAの先進シミュレーションおよびコンピューティング(ASC)プログラムの枠組みで進められる。このプログラムは、機械学習の応用例、深層学習アルゴリズム、および各関連プログラムに関わる研究の一般的な実現可能性の評価を目的としたものだ。

 LLNLのデータサイエンス担当副アソシエートディレクターであるJim Brase氏は「ニューロモーフィックコンピューティングは、非常に刺激的な新たな可能性への扉を開くものであり、われわれが考える、国家安全保障関連ミッションの中心を占めるハイパフォーマンスコンピューティングとシミュレーションの未来とも方向性が一致する」と述べており、同氏はニューロモーフィックコンピューティングの潜在能力について、「科学のやり方を変える」可能性があると話している。

 IBMフェローであり、脳からヒントを得たコンピューティングのチーフサイエンティストを務めるDharmendra S. Modha氏は、「この先進的コンピューティングプラットフォームの実現は、コグニティブコンピューティングが次の時代に入ったことを象徴する大きな出来事だ」と話す。

 Modha氏によれば、LLNLとIBMの協力関係は、双方が「前例のない能力とスループットを持つシステムを可能にしつつ、金銭、運用、プログラミングにおけるコストを最小化する」ために、脳からヒントを得たコンピューティングの能力を向上させることを可能にするものだ。

 LLNLの研究者は、IBM Researchやエネルギー省のさまざまなパートナー、および大学と協力し、ニューロシナプティックアーキテクチャの限界を広げる取り組みを進めていくという。

脳からヒントを得たコンピュータネットワークは、1600万個のニューロンと、2000億個のシナプスに相当する処理能力を持つ
この脳からヒントを得たコンピュータネットワークは、1600万個のニューロンと、2000億個のシナプスに相当する処理能力を持つことになるという。
提供:Andrew Ostrovsky

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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