IBM Think

量子コンピュータ市場を狙うIBM--慶大や日本企業も高い関心 - (page 2)

末岡洋子

2018-03-28 07:30

 Krishna氏の基調講演では、IBM Qを実際に使っている企業としてSamsung、さらに日本からは慶應義塾大学が登場した。中でも慶應大学理工学部は、「IBM Q Network」のハブとなることも発表されている。IBM Q Networkは量子コンピュータの用途を探るネットワークで、2017年末に発足した。慶應大学はハブとして、メンバー企業の量子計算ソフトウェア開発の支援などを行うという。


慶應義塾大学理工学部 学部長 伊藤公平氏は、「IBM Qは初のリアルなコンピューター。これはブレークスルーであり、”Quantum Leap(=飛躍的進歩)”だ」と述べた。

 慶應大学理工学部長の伊藤公平氏は、「IBMのおかげで量子コンピュータが歴史上初めて使えるようになった」とIBMの実用化に向けた取り組みを賞賛した。なお、IBM Q Networkのハブは現在、英国、米国、オーストラリア、日本の4カ国しかなく、慶應大学はアジア初となる。日本からは、JSR、日立金属、本田技術研究所、長瀬産業なども参加しており、関心が高まっているようだ。

 Chow氏は、今後企業での利用が進むと述べるが、「まだ量子コンピュータとは何かを探っているところ。他のAI技術などのような大規模な投資はしないが、量子コンピュータは無視できない存在になっている」(Samsung ElectronicsのAdvanced Institute of Technology バイスプレジデントのSeongjun Park氏)という言葉のように、現場で量子コンピュータが使われるまでには時間がかかりそうだ。日本IBMの森本氏も、「1年後、2年後に購入して使うというものではない」と述べる。

 IBM ResearchでIBM Qストラテジー、エコシステムを担当するバイスプレジデントのBob Sutor氏は、現在を「まだまだ早期。何に利用できるのかを見せて、われわれと一緒に量子コンピュータを探り、競合優位性につなげようという企業と協業している」と説明する。

 IBMはIBM Q Experience、の一環として、開発者が容易に量子コンピューティングのプログラム開発をスタートできる「QISkit」も提供する。昨年末のIBM Q Network立ち上げを受け、今年はエコシステムを強化するという。キュービットも引き続き上げていくが、そこに主眼を置くよりも利用者を増やし、理解を求める。

 また、単に量子コンピュータをプッシュするのではなく、どこに使うのかの成功事例も重視したいとする。「数学的には量子コンピュータは全てができるが、現在の量子コンピュータではローレベルなロジックをやろうとするとかえって遅くなる」とSutor氏。ポイントは、顧客が解決しようとする問題や高速化したい部分はソフトウェアエンジニアリングでは可能か、これまでと違う方法で考えて量子を適用できるか、など。IBMでは専用のコンサルチームを組んで助言を行なっているという。

 技術面では、キュービットを少し増やし、安定性を改善したり設計を考える、そしてキュービットがまだ増やせると分かれば増やす、という作業を少しづつ進めていくとした。


重ね合わせ(左)、量子もつれ(右)は重要な量子コンピュータの特徴だ。

「QISkit」の画面。音楽の5線のようなシートを使って量子の回路が表現されている。

IBMの量子コンピュータのチップ

 このように少しずつ量子コンピュータが発展しつつあるが、Sutor氏は、「将来もこれまでのコンピュータはなくならず、量子コンピュータとのハイブリッド型になる」と予想する。

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