野村総合研究所(NRI)は4月25日、2015年4月にスタートした持続的な成長を実現させる長期経営ビジョン「Vision2022」の後半に入り、当初掲げた数値目標の営業利益1000億円、グローバル事業1000億円などに加えて、売上高6700億円以上とEBITDAマージン20%を新たに設定した。
此本臣吾社長は「Vision2022の前半の中期経営計画(2016年度から2018年度)に掲げた目標を達成した」と嬉しそうに語った。売り上げは2015年度の4214億円から2018年度に5012億円と19%増に(うちグローバル事業は146億円から530億円と3.6倍に成長)、営業利益は583億円から714億円と23%増になり、営業利益率が14.3%と0.4ポイント改善する。セグメント別に見ると、金融向け売上構成比が2015年度の60%から2018年度に50%へ下がる一方、産業向けが26%から35%に上がる。年間の売り上げが10億円以上の顧客企業も22社増えて86社になる。
「この3年間は目論見通り」と此本社長
此本社長は注力した4分野を振り返る。1つは10億円以上の赤字になる大型不採算案件をほぼ抑制したこと。プロジェクト管理が成功し、営業利益率は14%超の高水準を確保できた。2つ目は業界標準プラットフォームが拡大したこと。産業向けはデジタルトランスフォーメーション(DX)への投資が活況し、金融向けは仕込んだ大型案件が花開き始めたという。
3つ目はグローバル事業のしっかりした基盤ができたこと。特に買収したオーストラリアのASGをベースに同国事業が順調に拡大する。4つ目はビジネスITの創出で、特にデジタルとリアルの融合などのDX案件が増えたこと。アジャイル開発の習熟度が進み、産業向け案件の生産性が向上する。「産業向けアジャイル開発の利益率は、金融のウォーターフォール型開発を上回った」(此本社長)。顧客企業と一緒にITを駆使した新しいビジネスの立ち上げも順調で、KDDIや日本航空、DMG森精機、デンソーと合弁会社などを手がけた。「この3年間は目論見通りだった」(同)
NRIはこうしたDX案件の拡大を期待する。日本情報システムユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査報告書2018」によると、デジタル化に取り組み、成果を出した企業は8.7%と1割にも満たない。此本社長は「レガシービジネスと新規ビジネスが奪い合ったり、デジタル人材が不足していたりする」などを理由に挙げる。加えて、基幹システムの老朽化でIT投資の多くが保守運用に割かれて、成長に振り向けられていない。つまり、DXの本格化はこれからになる。事実、老朽化対策に対する問い合わせが増え始めているという。
DX事業を成長戦略の中心に据える
2019年4月から入ったVision2022の後半は、成長戦略の中心をDX事業にし、DX関連売上を2018年度の約60%から2022年度の約75%に増やす。具体策の1つは、ユーザー企業とサービスを一緒に作り上げること。ビジネス構築からシステム構築までを支援するもので、此本社長は「ビジネスが大化けするかもしれないし、逆になることもある」とし、事業性に確信を持てたら投資したり、合弁を設立したりするという。前半並みの6件程度を見込んでいるのだろうか。
DX事業には、ビジネスモデルは変わらないが、中身を高度化するものもある。例えば、スマートフォンを活用し、ダイレクトチャネルを構築すること。レガシーシステムをクラウドベースの共同利用型サービスに移行させたり、PaaSで再構築してモダナイゼーションさせたりすることも含む。金融では「ITアセットを軽くしたり、アウトソーシングしたりする。スクラッチからASPへの切り替えも進むだろう」(此本社長)。異業種からの新規参入組が新しい金融サービスを開発する際のプラットフォームとして採用することも期待する。
成長を見込めるもう1つの、売り上げの約15%、約1000億円を目標とするグローバル事業はM&A(買収合併)に500億円超を用意し、オーストラリアと北米などで事業基盤を強化する。此本社長によると、オーストラリアのIT市場は年4~5%で伸びており、クラウドへの移行が進んでいる。特に2ケタ成長する既存ビジネスを破壊する新興企業をターゲットにし、「そこに必要なピースがあれば追加投資する」(此本社長)。NRIにないテクノロジーやサービスを持つIT企業が買収対象ということだろう。北米では、特定分野に強い“ブティック型”の企業などに投資する。「インドなどアジアでもチャンスがあれば、M&Aを検討する」(同)
此本社長は「売上高6700億円以上と営業利益1000億円はオーガニックな成長で達成できる」と読む。売上目標達成にはVision2022前半の年6%成長を少し上回る数字が必要になるが、産業向けは2ケタ、金融向けは1ケタ後半の成長をそれぞれ見込む。此本社長は「(営業利益率14%以上は)この程度がいい」と、挑戦し続ける姿勢を改めて示した。難しい未経験の案件獲得を避ければ、20%になれるかしれないが、将来の成長を失うことになるからだろう。
それを強く意識させたのが、新たな目標設定したEBITDAマージン20%以上だろう。営業利益に減価償却費などを加えたEBITDAを売上高で割ったもので、成長を支えるキャッシュフローの創出力を示すもの。横山賢次常務執行役員は「新しいDXに重要になる」とし、DXでリードする“A企業”を上回る数値目標にしたという。意識する“A企業”とは、おそらくアクセンチュアのこと。逆に、アクセンチュアの営業利益率はNRIを3~4ポイント上回るが、DX事業に投資し、DX市場で確固たる地位を築くことを優先した作戦なのだろう。
- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。