山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

中国の一部人気サービスは大赤字で成り立っている

山谷剛史

2019-05-10 07:00

 中国の企業各社から年次決算が一通り発表された。IT分野は中国の花形産業となっているが、輝かしくも太っ腹なサービスでの黒字化はなかなか難しいようだ。iiMediaResearchがIT系企業で年間損失額の多い企業をまとめた「2018年度互聯網上市公司虧損榜単(2018年度ネット上場企業赤字ランキング)」で明らかにされている。

 近年一気に普及した電子商取引(EC)サイトの「pin多多(pinは手偏に并)」が赤字額で最大となった。2018年に米国NASDAQに上場し、16億米ドル(約1760億円)を調達した同社は、年間売上額が前年比6倍の131億2000万元(約2130億円)となったが、損失額は102億1700万元(約1655億円)となった。テレビやネットなど、とにかくさまざまな場所で広告を見るが、その広告費が損失額を押し上げているのは間違いない。

 pin多多は、阿里巴巴(Alibaba)の淘宝網(Taobao)で偽物商品の取り締まりが強化される中、淘宝網よりもさらに安かろう悪かろうな商品を販売。広告戦略も相まって多くの人々に認知され、低所得層に人気のサイトとなった。その急伸ぶりから、阿里巴巴の共通の敵として騰訊(Tencent)と提携をした一方、米国政府から偽物が売られる取引市場に認定された。

 動画サイトで収益を得るのもまだまだいばらの道だ。2018年3月に上場した動画大手の愛奇芸(iqiyi)は91億元(約1500億円)、bilibiliは5億6500万元(約90億円)の赤字となっている。愛奇芸では、有料会員による収入が106億元(1720億円)となり、初めて100億元超えとなった。コンテンツのライセンス購入費用と自社製コンテンツの作成費用などがかさむ。bilibiliについてはコンテンツへの投資に加え、売り上げの柱であったゲームの「Fate/Grand Orde(FGO)」と「アズールレーン」の売り上げが減少している上に、続くゲームがリリースできてないことが挙げられている。

 美団点評が提供する「美団」と「大衆点評」は、食品や日用品のデリバリーに加え、食品や飲食店の口コミサービスやクーポンなど、中国人の生活で欠かせない企業だ。美団点評は85億1700万元(約1380億円)の損失となっている。

 2018年9月に上場し、325億香港ドル(約4700億円)を調達、2018年には黒字が見込めなかったシェアサイクルのMobikeを27億米ドル(約2970億円)で買収している。デリバリーにシェアサイクルの大手を抱える同社だが、同社のデリバリーサービスについてはクーポン系や予約サービスが141億元(2300億円)、フードデリバリーが52億7000万元(約850億円)の利益となった。つまり同社の既存事業についてはプラスだが、Mobikeの買収で大赤字となったことになる。

 日本人になじみ深いところでは、フォトレタッチの「BeautyPlus」をリリースしている美図(Meitu)は8億7900万元(約142億円)の損失となった。損失の主要原因として、同社の自撮りに特化したスマートフォンが低迷し、同部門が5億元の赤字となったことを同社は挙げている。スマートフォン事業は小米(Xiaomi)と提携し、小米から発売されることになる。

 iiMediaResearchの同レポートによると、他の主要ネット企業の2018年度損失額は、メディアの趣頭条が19億4600万元(約315億円)、大手ポータルの捜狐が15億9800万元(約260億円)、中古車売買プラットフォームの優信が15億3800万元(約250億円)、インシュアテックの平安好医生が9億1300万元(約150億円)となっている。これらは中国に住んでいたり、IT系ニュースを見ていればたまに目に入るほど知られている企業だ。

 またシェアライド大手の滴滴打車は2018年で109億元(約1770億円)の損失になり、ドライバーへの計113億元の手当が響いたと中国メディアは報じている。滴滴打車サイドはそれについてコメントしていない。これもまた中国人にとっては身近といえるほど各地域で普及したサービスだが、本当であるなら収益化されてないサービスに人々は依存してきたことになる。

 一方で、もちろん、阿里巴巴や騰訊など多くの中国企業が黒字経営をしている。一方でスゴイ中国ITの代名詞的なS級サービスを提供する企業の中には「損益を気にせずとりあえず突き進む」という企業も多くある。ここに挙げなかったが、日本でも話題になったシェアサイクルや無人ショップは収益化ができなかった。日本企業が中国のようにスピーディーに新製品や新サービスを投入できない理由は、赤字でも大丈夫な投融資の環境がないことが一つに挙げられるだろう。

 最後に広告になるが、5月11日にB級中国がS級中国に変わった背景について、筆者を含め計5人のスペシャリストが論じた『中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国(さくら舎)』が発売される。興味があればお手にとっていただければ幸いである。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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