米VMwareのCTO(最高技術責任者)を務めるRay O'Farrell氏は7月4日、都内で記者会見し、企業の「デジタル変革」にも影響するテクノロジーのトレンドに対する見解などを説明した。同氏は、企業のCIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)に対し、「特定のテクノロジーにとらわれることなく、さまざまなテクノロジーがつながることで社会に与える影響に注視すべきだ」と述べた。
VMware上席副社長 CTOのRay O'Farrell氏
同氏は、社会構造を大きく変えるテクノロジーのトレンドの間隔が狭まっていると説く。産業革命を起こした蒸気機関の発明から機械の大量生産化までと、大量生産化からコンピューターの汎用化までにはそれぞれ約100年を要したが、IoTなど現在到来しつつある「サイバーフィジカルシステム」までは50年ほどに短縮された。この間隔はより短くなり、企業はテクノロジーをより俯瞰的に捉えて対応すべき――というのが、O'Farrell氏の見解だ。
O'Farrell氏によれば、同社は社会に大きな提供を与えるテクノロジーを「Tech Superpowers」と呼び、エッジ/IoT、クラウド、AI(人工知能)/機械学習、モバイル――の4つを挙げている。
VMwareが「Tech Superpowers」と呼ぶ技術トレンド
エッジ/IoTは、現状では特定のデバイスにセンサーやネットワークを接続し、そこでのデータを特定の目的に利用できるかという実験的な取り組みが中心。一段階進んだところでは、データを直接データセンターに集めて処理することの非効率性や処理遅延の課題が顕在化し、エッジコンピューティングを併用するような分散処理をしている。しかしO'Farrell氏は、その先として、個別の取り組みから得た複数の知見を組み合わせ、集合知のような形で利用できるようにすることが重要だと述べた。
クラウドでは、現在の主流はオンプレミスと併用するハイブリッド型への変化になっている。ただ、エッジ/IoTの文脈を踏まえ、ネットワークあるいはデータセンターの所在といった物理的制約、さらには欧州の一般データ保護規則(GDPR)などデータレギュレーションへの対応などが課題になり、ここではマルチクラウドと適切なデータ利用を考慮した運用モデルを適用しなければならないという。
AI(人工知能)/機械学習についても、エッジ/IoTと似たように、個々の学習データから個々のアルゴリズムやモデルを単に追究するばかりではいけないと説く。開発されたアルゴリズムやモデルを効果的に組み合わせて迅速かつ効率的に精度を高め、現実社会に適用していくアプローチが求められるとしている。
モバイルは、既にインターネットやスマートフォンの普及によって、個人と企業・組織、社会を相互に接続させるインフラとなっている。O'Farrell氏は、上述の3つのテクノロジートレンドと相まって、モバイルに接続されるステークホルダー同士の関係性はより緊密になっていくと解説した。
O'Farrell氏の挙げたテクノロジートレンドは、単体でも大きな変化が続いている状況だが、同氏はそれらが有機的に結び付くことでより強力なものになり、現実社会に変化を与える存在として機能していくと提起している。
さらに同氏は、将来的なテクノロジーリスクの1つとして、量子コンピューターによる現代の暗号技術の危殆(きたい)化も挙げた。現代の暗号技術は、基本的にコンピューターの処理能力を駆使しても現実的な時間の範囲で暗号アルゴリズムなどの解析が極めて困難(理論的には可能でも)ということを前提に利用されている。ただ、既存のコンピューターでも処理能力が向上していることで、古い暗号アルゴリズムは利用停止が勧告されている。
O'Farrell氏は、現状の量子コンピューターはまだ従来型のコンピューターに及ばないが、急速な開発によって、2025年頃には現代の暗号技術を突破できる能力を手にするだろうと語る。これが現実になれば、上述したようなテクノロジートレンドがもたらす近未来の社会のリスクになるというのが同氏の見立てになる。既に、同じDell TechnologiesグループのRSA Securityらと、このリスクに対する調査や研究に共同で取り組んでいるという。
量子コンピューターの進化がもたらす現代暗号技術の危殆化に備えた取り組み