今回は、教育現場のIT環境の現状がどのようになっているのかを述べていきたい。日本は、歴史的にも非常に教育熱心で、民衆の隅々にまで行き渡った文化のようであり、それは江戸時代の日本の識字率の高さなどからもうかがい知ることができる。現在でも家庭での教育熱は変わらず高いが、その反面、国家の教育熱はそれほど高くないかもしれない。なぜなら、政府の教育予算は日本の経済規模からすれば非常に小さいからだ。
経済協力開発機構(OECD)の調査によると、2015年時点で国内総生産(GDP)のうち小学校から大学までの教育機関に対する公的支出の割合を見ると、日本は2.9%と34カ国中最下位だった。トップはノルウェーの6.3%で、OECD加盟国の平均は4.2%だ。一概に置かれた状況や環境が異なる国同士を単純に比較できない部分もあるが、少なくとも現在の日本は、経済規模からすると「教育にお金を費やさない国」になってしまった。これが教育ITを導入する現場にもたらす状況を紹介する。
教育ITの対象は高等教育
これまで教育分野のITは、その対象のほとんどが大学や高等専門学校、各種専門学校といった高等教育のものだった。その歴史は大企業などのIT導入とほとんど変わらない。1990年代までにほとんどの高等教育機関で、ITが何らかの形で導入された。その範囲も教員や職員に始まり、現在はキャンパス全体で無線LAN環境を整備している学校が多い。「情報センター」などシステム担当の組織もあり、先進的なIT導入企業に比べて遜色ないレベルといえる。
しかし、その流れがすぐ高校以下に伝播せず、小中高校と大学などの高等教育機関との間に大きな格差ができた。その理由は幾つかあるが、最大の理由は学校自身の財務状況だろう。IT導入には資金が必要だ。そして、イニシャルコストはもちろん、ランニングコストの占める割合が大きい。資金力のある一部の私立を除けば、ほとんどは公立校だ。公立ということは地方自治体そのものであり、ほとんどの場合、大きなコストのかかるITの予算を組むことは非常に難しい。筆者が住む自治体は、都心から鉄道や高速バスなどで1.5時間程の立地にあるものの、この10年ほどで人口が15%ほど減少し、行政サービスの質を維持しづらい状況にあることを感じる。この状況は全国的に散見される。ほとんどの地方自治体の自主財源で、学校のIT投資を賄うのは現実的ではなかっただろう。
全国一律IT化の難しさ
日本国憲法の第26条には、「すべての国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、等しく教育を受ける権利を有する」とある。つまり、生まれ育った環境によって受けられる教育に格差が出るのは憲法違反に抵触する可能性があり、本来は全国均一でなければならない。だが、3万5000校近くある小中高校の全てに同水準の教育ITを導入するには、「ヒト」「モノ」「カネ」のリソース全てが足りないのが現実だ。
中でも「ヒト」は頭の痛い課題だ。まず、現在の学校にITの専門家がほとんどいない。しかも、都心や大都市ならIT設備の導入や保守もすぐに頼めるが、学校は離島や過疎地などにも数多く存在し、そこにはITベンダーの拠点などもない。地方にもITベンダーは存在するが、学校のような交通の便があまりよくない場所を得意とする企業は少ないと思われ、このような地域によるIT格差も確実に存在する。
そして、統計によると子供と親の年収は連動しているという。そして、それはそのまま学力にもあてはまる。例えば東京大学の学生の親の年収はその過半が950万円を超えているのは有名な話だ。そのようなデータが示す通り、全国民に同水準の教育を等しく受けさせることは理想でしかない。しかし、政府の教育政策において格差を前提とすることは許されない。つまり、日本の教育ITは、そのような矛盾した状況から、導入時点で課題だらけなのだ。