スマートフォンの雄であるサムスン電子の中国でのシェアが極めて低くなっている。調査会社のIDCによると、2019年第2四半期の世界のスマートフォン市場において、サムスンは7550万台を出荷し、世界シェアでトップの22.7%となっている。ところが中国市場になると様子が変わり、Strategy Analyticsによれば、同四半期での出荷台数はわずか70万台で、中国市場でのシェアは0.7%となっている。
サムスンはかつて中国で売れていた。例えば、IDCによれば、2013年の同社のシェアは18.7%でトップだった。だが、2014年には12.1%となり、小米科技(シャオミ)に続く第2位に後退。華為技術(ファーウェイ)、欧珀移動通信(オッポ)、維沃移動通信(ビーボ)といったメーカーがシェアを伸ばす中、2015年前半に5位以内に入ったものの、その後はトップ5から姿を消して「その他の企業枠」に入っていった。
当時の中国現地の状況を振り返るに、以前はサムスンの看板を付けた販売店を多く見かけた。だがその後、シェアが落ち込むに従って販売店も見かけなくなっていった。
世界的に不人気で、中国市場でも不人気になるのなら分かるが、世界的に人気のメーカーが中国市場で振るわないというのならば、何か特殊な事情があるのだろう。ではなぜ、サムスンのスマートフォンは中国市場でだけシェアが急落したのだろうか。
中国メディアは幾つかの分析をしている。
まずは中国企業の台頭だ。ファーウェイ、オッポ、ビーボ、シャオミといった企業が伸びてきて、高性能な端末をサムスン以上のコストパフォーマンスで販売したというのが1つ。加えて中国メーカーは、その時々で消費者に訴えるのが上手だった一方、サムスンは高性能であるだけでメッセージ性が感じられなかったというのもあったとしている。
例えば、オッポの認知が急に広がったのは、「5分充電、2時間通話」という分かりやすい広告があったからだった。また、オッポやビーボは中性的な男女をアイコンに、きれいに自撮りができる機能をプッシュした。サムスンは「有名なスマホ」というだけで、他社と比べて訴えるようなことがなかった。
さらに「Galaxy Note 7」の発火問題と、それによるリコール措置である。これによりサムスン製品へのイメージが悪化したと中国メディアは分析する。ただこれは2017年1月の話なので、サムスンのシェア低下のきっかけを作ったというよりもイメージダウンに拍車をかけたといっていいだろう。
加えて筆者の考えを以下に書いていく。
最近、「国潮」という言葉をよく見るようになった。これは国産品をカッコいいと考えて消費していくブームのことで、「非力でも格好悪くても、国産品を支持していく」といった以前のような愛国心とは少しフィーリングが異なる。特に1990年代生まれ、2000年代生まれの若者に顕著で、スマートフォンにおいても高性能な国産品を積極的に買っていこうという動きがある。
加えて、流通の仕組みがサムスン離れを加速させた。サムスンはかつて中国での販売について、中国全体を数社の販売代理店に委託し、中国全土のさまざまなモバイルショップに流通させた。売れ行きが良くなると、もっと売ろうと全土を担当する販売代理店から、各省に強い販売代理店へ、さらに各市を担当する販売代理店へとくら替えしていった。
これにより、より多くの販売店にサムスン製品を扱う店舗が増えたが、製品に魅力がないと思われるや、各地の代理店が別の企業の代理店に次々とくら替えしてしまった。サムスンは、全国の蘇寧電器や国美電器といった大手家電量販店で販売を続け、スタッフを派遣するなどの対応も講じたが、家電量販店離れが進む中でブランドを認知させるには不適切だった。
中国人によるスマートフォンの買い替えサイクルは世界平均よりも早く、1機種の平均所有期間が短めであることも、「知人が所有するから自分も買う」といった購買動機をなくし、中国市場でのサムスン離れを加速させた。
サムスンはシェアがほぼ0%の状況から再びスタートする。第5世代移動体通信システム(5G)対応端末をきっかけに、上海にアンテナショップをオープンし、中国全土を担当する総代理店とも契約した。少し販売台数を戻すかそれでも戻せないのか、特殊な中国市場でサムスンは試されている。
- 山谷剛史(やまや・たけし)
- フリーランスライター
- 2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。