AWS re:Invent

トランスフォーメーションとは「再発明」--AWSのCEOが語るもの

國谷武史 (編集部)

2019-12-04 12:54

 Amazon Web Services(AWS)の年次イベント「re:Invent 2019」が米国ラスベガスで開催されている。会期2日目の現地時間12月3日の基調講演には最高経営責任者(CEO)のAndy Jassy氏が登壇した。同氏は、企業のトランスフォーメーションについて言及しつつ、コンピュート、データベース、ストレージ、機械学習、エッジの各領域で20以上の新機能を発表した。

Amazon Web Services 最高経営責任者のAndy Jassy氏
Amazon Web Services 最高経営責任者のAndy Jassy氏

 re:Invent 2019には世界から約6万5000人が参加し、3300以上のブレイクアウトセッションがラスベガスの複数のホテルにまたがって開催されている。Jassy氏は、メガクラウドプロバイダーの一角を成すAWSが広く、深いサービスを提供することでこの実績を獲得していると強調する一方、企業のIT予算の97%はいまだオンプレミスの領域に充当され、残る3%のクラウド向け予算の中で同社がトップクラスであることに過ぎないとの見方も示した。

IT投資に占めるクラウドの割合はまだ非常に小さく、クラウド時代とはいえないとする
IT投資に占めるクラウドの割合はまだ非常に小さく、クラウド時代とはいえないとする

 Jassy氏が基調講演の冒頭で触れたテーマは「トランスフォーメーション」だ。昨今は日本でも「デジタルトランスフォーメーション」の言葉が注目を集める。Jassy氏は、配車サービスで伝統的なタクシー業界を変えたUberなどのように、“デジタルの破壊”をもたらす幾多のスタートアップがAWSを利用していると話した。一方、AWSを利用する伝統的な大企業や公共組織も増えている。彼らもまた、自らの「トランスフォーメーション」を重要課題として捉えている。そこにAWSが何をできるのかーー基調講演の前半はそのメッセージが来場者に投げかけられた。

 同氏は、「ユーザー体験」がトランスフォーメーションの原動力だと説く。Amazon自体もかつては伝統的な小売業界の“破壊者”とみなされてきたが、その裏側を支えるITシステムはプロプライエタリーなものだった。急拡大するeコマースへの需要に伝統的なITシステムでは対応が次第にままならなくなり、「ユーザー体験」を実現するために自らITシステムを作り変えてきた。その変遷がAWSの歴史とも言えるようだ。

 「ユーザーの期待は『今すぐほしい』、それが全てだ。大きなトランスフォーメーションを自ら起こすなら時間を待ってはいけない。しかし、大きな組織が動くには時間がかかる。そこに必要なものは、経営層の理解とトップダウンであり、ゴールの方向性を見定め、時間をかけても組織を硬直化させることなく、一気に、着実に進めていく。トランスフォーメーションの第一歩は技術ではなく、リーダーシップになる。リーダーの意思決定によって開発者たちがその能力を生かして対応する」(Jassy氏)

 トランスフォーメーションの動きを推し進める開発者はAWSにとって最大のユーザーであり、彼らの要望へすぐに対応して体験を提供することが、AWSの最たる強みだとJassy氏は主張する。

 例えば、その基本的な取り組みの1つが独自技術の開発と実装であり、2017年に発表した「Nitro System」や2018年に発表したArmアーキテクチャーベースのプロセッサー「Graviton」が代表的だ。Nitro Systemの実装によってAWSのサービス基盤では、複雑なハードウェアとソフトウェアのスタックに柔軟性が提供されるようになり、性能やセキュリティ、拡張性、コストなどに対する複雑なユーザーの要件に応え得るサービスを開発できるようになったとする。

 今回の新サービスにおいて、コンピュート領域ではGravitonプロセッサーの第2世代を用いた3つの新しいEC2インスタンス(M6g、R6g、C6g)を発表した。Gravitonプロセッサーの発表からわずか1年で第2世代をリリースできたのは、コスト削減や性能の向上を求めるニーズへスピード重視で対応する開発体制にあるとJassy氏は説明した。第2世代Gravitonプロセッサーはx86ベースのインスタンスと比べコスト性能が40%向上しているという。さらに、機械学習の推論用途では業界最安レベルという「Inf4」インスタンスも発表している。

第2世代Gravitonプロセッサーによる新インスタンス
第2世代Gravitonプロセッサーによる新インスタンス

 企業のトランスフォーメーションでは、ITの観点で挙げられるテーマの1つに「モダナイズ(近代化)」もある。まずコンテナー/サーバーレス環境の「Fargate」においてKubernetesを利用できるようにする「AWS Fargate for Amazon Elastic Kubernetes Service(EKS)」を発表した。Jassy氏によれば、サーバーレス環境を新規導入するユーザーの42%がFargateを選択しており、ここにKubernetesによるコンテナー管理基盤を統合したという。

 モダナイズにおいてAWSは、特にデータベースサービスの拡大を図ってきた。「リレーショナルデータベース(RDB)では、プロプライエタリーでライセンスも高い製品から“逃げたい”ユーザーに、オープンソースベースのマネージドサービス(Amazon Auroraなど)を提供し、2014年から数万社の顧客が移行を成し遂げている」とJassy氏。さらには「OSも特定のベンダーに縛られずLinux環境に移行することもサポートしてきた」と述べた。

 ただし同氏は、大企業におけるシステムのモダナイズは、こうしたAWSのサービスだけでは難しいとし、ソフトウェアベンダーやシステムインテグレーションパートナーらによるエコシステムが大きな役割が果たしているとも話した。

ITシステムのモダナイズは引っ越しのようなものであり、いかに“取捨選択”するかも肝心だという
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