「5年以内に事業モデルを転換する」――。大分県に本社を置くザイナス代表取締役社長の江藤稔明氏は人月単価の労働集約型ビジネスから脱却する一環から、AI(人工知能)やIoTなどの先端技術を駆使した情報システムやユーザー企業らに防災関連システムや決済システムなどの共同ビジネスの立ち上げを提案する。2019年末に量子コンピューターを活用した受託開発も始めた。
江藤氏は高校卒業後、入社した新日本製鉄(現日本製鉄)大分製鉄所と同社から分社した新日鉄情報通信システム(現日鉄ソリューションズ)で、メインフレームOSなどIT関連技術を担当する。そんな中で、中小企業にPCが急速に浸透したのを見て「これさえあれば商売ができる」と35歳で退職し、2000年5月にザイナスを設立した。
手始めに、土木向け原価管理や施工管理などのパッケージソフトを開発し、土木現場にフロッピーディスクを持って売り込みに行った。「少しずつ稼げるようになり、5人で事業をスタートした」と江藤氏。新日本製鉄や東芝、ソニーなどの大手企業にシステムエンジニア(SE)を派遣するビジネスで、毎年10人程度増やしていった。現在、約170人の陣容にまで拡大し、総売上約16億円の7割強を派遣事業で稼ぎ出している。
だが、江藤氏は労働集約型からの転換を図りたいとの思いを強くしていった。そこで、自社商品やサービスの開発に乗り出し、名刺管理システムなど数本のパッケージソフトを開発した。1本当たり平均約2000万円、累計で約1億円を投資したものの、どれもほとんど売れなかったという。
そんな時、前職時代の先輩が立ち上げた人材派遣会社が東証マザーズに上場した。「知り合いだったこともあり、合併を考えた」と江藤氏は振り返る。ところが、中に入って財務内容などを調べたら、大きな問題が分かり、合併を断念したという。同氏によれば、同社はその後、粉飾決算が明らかになり、倒産したという。ITバブル前の出来事である。
ザイナスは再度、自社商品作りにチャレンジする。1つは、受け身から提案型の受託開発ビジネスへ事業モデルを転換すること。例えば、ウェブベースなどの“下手”な情報システムがあったら、AIやIoTなどの技術を駆使して「作り直そう」と提案する。最近、構築したAIを使ったもやしの需要予測システムはその1つだ。システム開発の効率化にも取り組む。ソースコードを生成するツールで、「生産性は4倍から20倍向上する」(江藤氏)という。もやしの需要予測にも使った。
量子コンピューターの活用支援も始める。「量子コンピューターの得意とする計算処理を任せて、その結果を基幹システムに戻す仕組み」(イノベーション事業部部長の畔上文昭氏)だ。例えば、飲食店のシフト勤務表作成といった組み合わせの最適化を解くもので、カナダのD-Wave Systemsなどアニーリング式量子コンピューターをクラウド活用する提案型の受託開発になる。
台風や洪水などの予報会社設立へ
もう1つは、ユーザーとの共同ビジネスの立ち上げだ。2018年秋に大分大学減災・復興デザイン教育研究センターとSAPジャパンと実証実験を開始した防災・減災の情報活用プラットフォームはその1つになる。「大分大学から、こんなシステムを作りたいという相談があり、当社は手弁当でシステム作りに参画した」(江藤氏)
簡単に言えば、天気予報のように台風や洪水などを予測するもので、その予測とデータを販売する事業会社を共同出資で設立することを目論んでいる。同様な決済サービスの事業化もある企業と進めているところ。江藤氏は詳細を明かさないが、「営業が得意な会社と、システムが得意な会社が役割分担し、一緒に事業化する」と共同ビジネスの狙いを話す。
こうした提案型や共同ビジネスを加速させる背景には、「AIの進化で、プログラマーの仕事がなくなっていく」(江藤氏)ことがある。2020年4月から新規ビジネスの社内公募を始めるのもその危機感からだ。「1年遅れだが、創業20周年の記念事業として、募集し、社内ベンチャーとして資金を投入する」。57歳の江藤氏は新しいことに取り組むため、SEらにアイデアの創造とスキル向上を求める。
- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。