ネットワークインテグレーションや通信工事などを展開するNECネッツエスアイ(以下、NECネッツ)が、クラウドサービスの活用を加速させている。間接業務を自動化し、従業員に創造性を発揮しやすい働く環境を用意するためで、ここ数年間にビデオ会議システム「Zoom」やビジネスチャットアプリ「Slack」、コンテンツ共有「Box」などを相次いで導入した。代表取締役執行役員社長の牛島祐之氏は「働き方改革の原点は競争力を高めることと、イノベーション力を付けること」と、クラウドサービスの積極的な活用を説明する。ユーザー企業に、その成果を働き方改革の仕組みとしても売り込む。
創造性を発揮できる働き方環境に
同社が働き方の見直しに本格的に着手したのは2010年頃になる。実は、その前から情報の電子化、つまりペーパーレス化を推し進めてきたので、2010年に東京・飯田橋に本社を移転したおり、紙書類の7~8割を捨てられたという。その後、フリーアドレスやテレワークを導入したり、誰でも参加可能なオープンな会議室を設置したりもする。
テレワークは当初の育児や介護の従業員から全従業員に対象を広げた。加えて、通勤時間を30分以内にするため、千葉や立川など7カ所にサテライトオフィスを用意し、2019年10月に本格運用を開始した。2020年にはスタッフ約700人の7割が利用できるようにする。牛島氏は「クリエイティブを発揮する上で通勤時間が掛かり過ぎていた」と、サテライトオフィスを設けた理由を話す。
テレワークやサテライトオフィスの利用拡大には、「この仕事はいらない」や「会議の目的を明確にする」などと業務内容と業務プロセスの可視化と見直しも欠かせない。離れた場所で働く従業員のコミュニケーションや情報共有をスムーズにする上で、クラウドサービスも必要になる。これらが業務プロセスを自動化し、例えば作業時間が大幅に減り、顧客対応時間を増やせることになる。その一方で、働く時間の管理から、成果に目を向けるなど評価も見直していく。
ビジネスデザイン統括本部エンパワードオフィス推進本部長の西川明宏氏は「分散した場所にいても、スタッフが業務をこなせるようにする」と、分散オフィス環境におけるマネジメントのチャレンジでもあると話す。2020年2月には、東京・日本橋にシステムエンジニア(SE)部隊を集約し、ユーザーや協力会社と協業するスペースにする。牛島氏は「当社は受託ソフト開発会社ではないので、クラウド活用に抵抗感がない」と、米シリコンバレーに拠点を設けて、業務効率化などに役立つクラウドサービスを探し出し続けている。
サーモン養殖などの新規ビジネスに参入
牛島氏は「飯田橋のオフィスを見学にきた人が累計約1万2000人に達した」とうれしそうだ。自ら実践した働き方改革とその仕組みをビジネスにするチャンスになるからだろう。事実、従業員の声が上がりやすくなり、自由な発想も生まれているという。その1つとして、牛島氏はサーモンの養殖事業への参入を紹介する。
NECネッツは約3年前からサーモンの養殖に関する知識やノウハウを蓄積してきたという。季節や場所を問わず、安定的にサーモンを生産するため、人工知能(AI)などデジタルを活用して水温や酸素量などの制御を遠隔操作したり、プラントの設計・施工、保守などを遠隔監視したりすることだ。それらをベースにサーモン専門事業者の林養魚場と組んで、山梨県に陸上の養殖場を建設し、2022年の出荷を目指している。成功後、フランチャイズ方式で全国展開を図り、ネットワークで集中管理していく計画だ。
陸上養殖場のイメージ(出典:NECネッツエスアイ)
そんな先端技術を駆使する新規ビジネスの立ち上げを担うのが、2019年4月に新設したビジネスデザイン統括本部だ。NECネッツの企業向け、通信キャリア向け、社会インフラの3事業の担当者を融合し、ユーザー企業らとの共創によるサービス提供モデルを創り出す組織だ。牛島氏は「(こうした)異業種やベンチャーと組むビジネスが増える」と、単独では生み出せない付加価値の高い事業を期待する。そのためには、「これまでを否定・破壊し、新しいものを創っていく」という。連携で起こすイノベーションに注目する。
- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任、2010年1月からフリーのITジャーナリスト。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書は「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)。