本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、日本IBMの山口明夫 代表取締役社長と、富士通の有山俊朗 テクニカルコンピューティング・ソリューション事業本部 本部長代理の発言を紹介する。
「日本企業のDXへの取り組み姿勢は以前より大きく変わってきている」
(日本IBM 山口明夫 代表取締役社長)
日本IBMの山口明夫 代表取締役社長
日本IBMが先頃、デジタルトランスフォーメーション(DX)に不可欠と位置付けるオープンテクノロジーに対する取り組みや最先端の活用事例を紹介する顧客企業向けのイベント「IBM Open Technology Summit」を開催した。
同イベントで基調講演を行った山口氏の冒頭の発言は、講演後に開いた記者会見で、「日本企業はこれまでのITと同様、DXについてもITベンダーの提案を待つ受け身の姿勢で臨もうとしているのではないか」と聞いた筆者の質問に対して答えたものである。
同イベントでは山口氏の講演をはじめ、同氏とレッドハット代表取締役社長の望月弘一氏、日本IBM IBM Services CTO兼オープン・クラウドセンター長の二上哲也氏によるパネルディスカッション、二上氏による「未来を支える、今準備すべきITアーキテクチャ」と題した講演、日本IBM執行役員 研究開発担当の森本典繁氏による「コンピューティングの未来」と題した講演が行われた。その全容については関連記事をご覧いただくとして、ここでは冒頭の発言に注目したい。
筆者が記者会見で上記のように質問したのは、日本IBMをはじめとしたITベンダーはこれまでのITに引き続いてDXについてもきめ細かいソリューションを整備してきているが、これまでのIT化でベンダーに依存してきた多くの日本企業が、これからDXを自らの手で推進できるかどうか、甚だ疑問に感じているからだ。
なぜ、DXは自らの手で推進すべきなのか。それは、DXはデジタル変革ではなく「ビジネス変革」だからだ。ビジネス変革は、そのビジネスを最もよく知っている人間、すなわち自分たちの手でやるべきだというのが、筆者の見方である。これに対して、山口氏は次のように答えた。
「日本でDXというと、多くのお客さまはまず既存のシステムをDX化することから考える。これはいわば負の要素を早く解消しようというマイナス思考といえる。一方、例えば欧米のお客さまの多くは、既存システムよりもDXによって新たなビジネスを生み出して展開できるのならば、そちらを先にどんどん進めようとする。これはまさしくプラス思考だ。こうした思考の違いがあり、日本のお客さまにおけるDXの取り組みが目立たない面があるのかもしれない。しかし、最近になって日本のお客さまもDXに対してどんどん積極的に取り組んでおられる姿勢を強く感じている。以前とは、それこそ大きく変わってきている」
冒頭の発言は、このコメントの最後の部分を抜粋したものである。この山口氏の手応えが本物ならば、これからDXに成功して活気づく日本企業がどんどん出てくるだろう。大いに注目していきたい。
記者会見の模様。左から、日本IBMの森本氏、山口氏、二上氏