山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

新型コロナウイルス騒動で分かれたシェアサービスの明暗

山谷剛史

2020-03-16 07:00

 中国では、新型コロナウイルス対策で、誰もが家にこもりっきりで、かつ見ず知らずの他人に間接的にも触れないよう徹底されている。エレベーターでは、ボタンを押すための爪楊枝が用意されているという話も中国全土で聞く。

 こうした中、シェアサイクルやシェアバッテリー(モバイルバッテリーのレンタル)といったサービスが困難に直面している。外出先でスマートフォンなどを使って利用するが、外出厳禁・接触厳禁の状況下では極めて使いにくい。

 まずシェアバッテリーを紹介する。中国では、2017年ごろからサービスが盛り上がり、小規模なプレーヤーが淘汰(とうた)された後、「街電」「小電」「怪獣」「来電」(三電一獣)の4社でシェアを競っている状態となっている。TrustDataによれば4社のシェアは95%に達する。

 シェアバッテリーは、モール内の店舗やデパート、カラオケボックス、マッサージ店、病院、銀行など、人が集まるところに設置されている。無料で置かせてもらっているわけではない。1社独占で端末を設置するには、年間で数千万元(1元=15円)の契約を結ぶ必要があるという。ところが、昨今の騒ぎで娯楽系の路面店やレストラン、モール内の店舗やモール自体が閉店を余儀なくされている。

 営業中の店舗でも客が来ないため、端末の電源を落としていることもよくあるそうだ。中国メディアの時代財経によれば、シェアバッテリー企業の売り上げは9割減だという。とても資金を回収できる状態ではなく、シェアバッテリー市場の悲惨な現状を紹介する中国メディアの記事も「今後、新しいビジネスモデルの誕生に期待する」とまとめるばかりだ。シェアバッテリー企業は、需要の復活を待ちながら、人の往来の多い中心地のモールを優先して端末の消毒を行っている。

 シェアサイクルは、屋外に置かれているだけシェアバッテリーより状況がましだ。それどころか新型コロナウイルスがまん延する前よりも利用されている。シェアバッテリーと同様、美団単車(旧モバイク)などは消毒活動を行っているが、それによる利用者の信頼が原因ではない。

 中国全土で仕事復帰となった3月1週には、北京、上海、杭州、南京など大都市を中心にシェアサイクルの利用が増加し、利用量は前週・前々週の86%増となった。さらにウイルスまん延前の1月と比較すると、上海、北京、西安などの都市において、平均乗車時間・平均走行距離が伸びているという。

 例えば、上海での平均走行距離が3.2kmとなったほか、中国全体では1回当たり3kmを超える利用が倍近くに増えた。美団単車のアナリストは、「出発地から目的地まで自分でルートを選んで動ける自転車を、出勤時の交通手段として選んでるのではないか」と分析した。人が密集しリスクがある地下鉄や路線バスを避ける目的があるわけだ。

 感染予防のため、自転車で時差出勤をしてることがデータで明らかになっている。7~9時までのラッシュアワーのシェアサイクルの利用は減少し、9~12時までの利用が増加した。また帰宅時は17~19時の利用が増加し、それ以降の時間の利用が減少した。

 美団単車は、極めて利用が少ない2月に14日間の無料デジタルチケットを配布している。その時期と比べても、3月の方が明らかに利用が増えている。単に無料にすれば利用されるというわけではなく、利用者は賢く選んで使っているということだろう。

 シェアバッテリーとシェアサイクルは、モノやサービスを共有・共用するものであるが、かくなる事情により明と暗が分かれたのだ。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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