ひとり情シスを卒業するという話が増え始めた
「来年度、もう1人増えるんですよ」「やっとひとり情シスは卒業です」――など、ひとり情シスの方がにこやかに話されることが、ここ1年で多くなってきました。事実、それを裏付けるデータが出ています。毎年春先になるとさまざまな調査結果や白書などが報告されます。多くの場合、前年の年末に調査をしたものを数カ月かけて分析して発表したものになります。
その中で、ひとり情シスについては、とても大きなサプライズがありました。筆者も4年前からひとり情シスの現状を調査してきたのですが、まずその実態数が多いことで多くのメディアから注目を受けました。その後、回を重ねるごとにひとり情シスやゼロ情シスが増加傾向だったのですが、2020年になって初めてひとり情シスが減少したという結果を見ることになりました。
全ての企業レベルでひとり情シスが減少傾向
「ひとり情シス」とは、文字通り一人きりで社内のIT部門を管理する状態のことです。今やスモールビジネス、中小企業から大企業、大企業の子会社や地方工場などに広がりを見せています。
従業員100人未満の中小企業では、ITの専門部門の組織を持たない企業が92.8%から92%に減少し、今まで兼任型だったひとり情シス企業がIT専門部門を持つようになったことが判明しました。0.8%と聞くとわずかな数字だと思われるかもしれません。しかし、国内に中小企業は約380万社ありますので、3万4000社にIT専門の部門ができたといえます。デジタルトランスフォーメーション(DX)やデジタルシフトの兆候が見られると言っても間違いではないと思われます。
また、100~999人までの中小企業(製造業、建設業、運輸業の場合は300人以下)と小規模の大企業のデータを見ても変化が出ています。ひとり情シスは2017年に31.0%だったのが、2018年に37.5%と大幅に増加しましたが、2019年の調査では37.4%に減少しました。こちらも0.1%の微々たるものかもしれません。しかし、ひとり情シスの増加に歯止めがかかり、減少に転じたのは大きい変化です。まだ少ないのですが、ひとり情シスを卒業して複数の情シス人員の組織になっている企業も判明しました。また、将来的に増員計画を持つ企業は16.1%ほど存在しますので、2020年度には約8000社がIT部門を強化することになるかもしれません。
また最近注目されているのが、大企業子会社のひとり情シスです。日本の伝統的な大企業が膨大な数のグループ会社を抱えていることは当たり前に思えますが、実はこれは日本だけのことです。30社以上の子会社を持つ企業だけでも467社が存在し、その総数は5万274社に上ります。
総務省統計局の調査によると、企業グループに属する子会社の75.6%は従業員が300人未満であると報告されています。中小企業規模の子会社は3万8000社ほど存在することになります。このうち65%の企業はひとり情シスやゼロ情シスで兼任型になります。
1000人以上の大企業子会社の調査結果によると、ひとり情シス企業の14.8%が増員計画を持つとされていました。大企業の人員増が、スモールビジネスや中小企業よりも増員している傾向が報告されていますが、ひとり情シスからの卒業も1000人以上の大企業やグループ会社に多いことが判明しました。
コロナショックの影響
全ての企業規模でIT部門の増員傾向が出ていますが、そこまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。何年も経営層に直訴して、やっとのことで増員が実現できたところも少なくないでしょう。経営層もデジタルやITの重要性を認識し、新年度を攻めに転じた新体制で迎える企業も多かったのではと思われます。
ただし、これらの調査結果は2019年末に実施された調査に基づくものです。現在の空気感と大きく異なるでしょうし、計画の再検討もさまざまな分野でされているものと思えます。多くの企業が新年度を迎えた2020年4月の現時点では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響は全く予測できません。新入社員の内定取り消しや、非正規労働者の雇用不安などの話も聞こえてきています。
しかも、「コロナショック」はリーマンショックを上回るとの指摘があります。IT求人市場では、リーマンショック以降、4年ほどは元通りには戻りませんでした。この時期に、IT人材が減少してひとり情シスになった方も多いと思います。実際に、4月より他部門から情シス部門に異動することが決まっていて、ひとり情シスからふたり情シスになる予定があったのですが、異動時期の延期を決定した会社もあるようです。
現在多くの企業で在宅勤務が進む中で、リモートワークの環境作りでひとり情シスは忙殺されています。在宅勤務を尻目に、ひとり情シスは会社に向かわねばなりません。在宅勤務用のPCの準備やリモート会議、デジタルワークフローの構築などとともに、経営層への説明や説得も必要になります。
リモートワークをDXの最初の一歩として推進する動きもあります。今は難しい環境下にありますが、ITを重要視した経営戦略の一環として、ぜひとも経営競争力の強化につなげたいところです。