日本IBMは6月16日、金融業界のデジタル変革(DX)を推進する「オープン・ソーシング戦略フレームワーク」と、これに基づく「デジタルサービス・プラットフォーム(DSP)」を発表した。金融業界共通の要件に基づく機能などを同社が担うことで、金融機関がデジタルビジネスに注力できるよう支援するという。
オープン・ソーシング戦略フレームワークは、企業のDXなど構造的な変化を推進できるようサービス提供のスピードの向上や開発コストの削減、システム品質の向上を重視しつつ、働き方改革や人材育成にも踏み込んだ取り組みを支援するものという。
「オープン・ソーシング戦略フレームワーク」の概要
今回の金融向けフレームワークは、「フロントサービス」「デジタルサービス」「ビジネスサービス」「パブリッククラウド」「新しい働き方の実践・人材育成・コミュニティー」の5つのコンポーネントで構成される。フロントサービスは、金融機関が顧客に開発・提供するアプリケーションや銀行間あるいはFintech企業との連携サービスなどになる。「ビジネスサービス」は、クラウドなどを活用して勘定系をはじめとする基幹システムのシンプル化を図っていくものになる。
DSPは、フロントサービスとビジネスサービスをつなぐ役割を担い、認証や諸届け、口座照会、振替、資金移動など金融業界に共通したサービスを日本IBMがマネージド型のクラウドサービスで提供する。フロントサービス側とAPIでつながる各種機能はマイクロサービスとして提供され、既に81種類をラインアップしており、今後は2020年中に147種類、2021年3月までに181種類に増やす。
「デジタルサービス・プラットフォーム」の概要
また、デジタルサービスとの接続ではIBMが「バックエンドアダプター」を提供し、勘定系システムに手を加えることなく、フロントサービスとの円滑な連携を可能にする。マイクロサービスとバックエンドアダプターの提供基盤は、IBM CloudとRed Hat OpenShiftで構成され、IBMが運用する。
同日記者会見した代表取締役社長の山口明夫氏は、金融機関がDXに向けてフロントサービスを展開する場合に、多くの作り込みを必要としその上で認証など共通要件の機能などを整えながらバックエンドシステムと接続するまでに、膨大な工数、費用、時間を要していることが課題だと述べた。
今回のフレームワークはその解決を図る全体像を示すとともに、「フロントビジネスとバックエンドシステムの2つをつなげる部分をIBMが提供することでお客さまがDXに注力できるようにする」(山口氏)という。同氏によれば、DSPのトライアルで開発コストを40%削減し、サービス提供までの時間を30%高速化する効果を確認した。
IBMは、2019年11月にBank of Americaと連携して金融サービス向けのパブリッククラウドを構築したほか、2020年5月にはBank of Americaの最高技術責任者(CTO)を務めたHoward Boville氏をクラウドプラットフォーム担当シニアバイスプレジデントに招へいした。
こうした経緯を踏まえて山口氏は、「われわれが安全性や堅牢性などを確保してパブリッククラウドとして金融のお客さまに提供する大きな取り組みになる。相当に準備し開発を進めており、(Boville氏の着任で)さらに堅牢なサービスに仕上がっていくのではないかと期待している」と述べた。
オンラインで記者会見した日本IBM 代表取締役社長に山口明夫氏
金融機関は、DSPなどIBMのサービスを活用して自社リソースを、競争優位性を獲得するための施策に集中できるが、サービスを適材適所で利用したり、自社リソースによる運用範囲を広げたりできるなど、IBMではパブリッククラウドながら柔軟な利用形態に対応していくとする。
山口氏は、「もちろん個別対応の方が(IBMのビジネスとしては)大きいかもしれないが、われわれがプラットフォームを提供することの方が金融の顧客にとってあらゆる意味でメリットがあると考えている。もちろんスモールスタートで始められ、DXに合わせ段階的に発展させていけるものになる」と話している。