リモートアクセスツールを手がけるTeamViewerは、2005年にドイツで創業し、特にIT機器をリモートで管理する“定番”ツールとして、グローバルで中堅・中小企業のIT管理者ユーザーを数多く獲得してきた。同社日本法人のTeamViewerジャパンは2018年の設立で、2019年9月にカントリーマネージャーに就任した西尾則子氏は、リモートアクセスツールの用途拡大に注力してきたという。
TeamViewerジャパン カントリーマネージャーの西尾則子氏
「2020年はコロナ禍によるテレワーク需要が急拡大し、ITの詳しい知識を必要とせずに利用できるTeamViewerへの引き合いを中小企業のお客さまから数多くいただいた。大企業からもPoC(概念実証)を経て導入をいただくケースが増えている」
2020年4~5月の緊急事態宣言下には、多くの企業が半ば強制的にテレワークへ移行し、これに伴ってVPN環境のリソースがひっ迫するなどの事態が発生。事業継続の観点からリソースの確保が急務になり、同社ツールへの関心が高まったとのこと。西尾氏によれば、2020年の国内ビジネスは前年比140%の急成長ぶりで、グローバルでの成長ペースを大きく上回った。ただ、国内市場はグローバルに比べて元々リモートアクセスツールへの需要が小さかったといい、コロナ禍を受けてグローバル並みに高まったとも西尾氏は話す。
同氏は、メラノックス テクノロジーズジャパンのジェネラルマネージャー兼社長などの要職を歴任。ストレージやネットワーク機器、ハイパーコンバージドインフラストラクチャー(HCI)といったハードウェア製品の事業経験が長く、TeamViewerへの参画理由は、「IT機器の複雑さが日本企業のIT活用を妨げる要因の1つと感じていた。そこでリモートアクセスの可能性に期待し、多様な用途を提供することがIT活用の推進につながるのではないかと考えた」からだという。
実際にコロナ禍に伴うテレワークでは、リモートサービスのために同社のツールを導入した企業で、担当者が在宅勤務をしながら育児がしやすくなったといった声が寄せられ、テレワークがリモートアクセスツールの可能性を示す一つのきっかけになったようだ。
それでも西尾氏は、テレワークソリューションがリモートアクセスツールの本来の姿ではないとも語る。
「例えば、グローバル本社のあるドイツでは、自動車メーカーがユーザーをリモートでサポートするために利用している。事故の際に連絡があると、Salesforce のユーザー情報と連携してTeamViewer経由でユーザーのモバイル端末と接続し、メーカーが現場での対応をサポートしている。また、対面接客が難しくなった保険会社では、タブレット端末とTeamViewerを利用して、顧客に商品の説明や契約をリモートで行えるように工夫している」
2020年の事業展開で西尾氏は、テレワーク需要に対応しつつ、こうした新たな用途の開拓にも取り組んできたという。9月には、環境シミュレーション研究所が漁海況情報のリアルタイムな収集・解析のために「TeamViewer IoT」を導入した。12月には、買収したウェアラブルコンピューティングのUbimaxの技術を取り入れた製造業向けの拡張現実(AR)ツール「TeamViewer フロントライン」の国内展開も開始している。
2021年の目標について西尾氏は、これらの取り組みを通じてリモートアクセスツールの多様な用途の可能性を示していきたいとする。
「2020年のテレワークは強制的に進んだ面もあるが、2021年はこれがベースとなり、ワークライフバランスなど元来の多様な働き方を実現する動きになるだろう。それに加えて、少子高齢化で人材不足に悩む業界では、IoTなどと組み合わせてリモートで機器を運用していくなどの『コネクテッドオペレーショナルテクノロジー』としての役割が期待される。日本のIT利用はコロナ禍のような外的要因で進む性質もあるが、リモートアクセスの可能性を通じて誰もが容易にITを活用できる環境づくりに臨みたい」