アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWS)は3月23日、同社パートナー向けの年次イベント「AWS Partner Summit Tokyo」をオンラインで開催した。基調講演に登壇したパートナーアライアンス統括本部長 執行役員の渡邉宗行氏は、近年注力するクラウド移行やデジタルトランスフォーメーション(DX)への対応などに加え、ユーザー企業におけるシステム内製化の支援も推進すると表明した。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン パートナーアライアンス統括本部長 執行役員の渡邉宗行氏
講演の冒頭で渡邉氏は、2020年を振り返り、コロナ禍がもたらす急激で非連続な変化への対応において同社のパートナー企業がクラウドの俊敏性や柔軟性といったメリットを生かし、多数のユーザー企業を支援したと説明。米Modernaにおける新型コロナウイルスのワクチン開発をはじめ、国内でも1000人規模のリモートワーク対応を10日で実現したコクヨや、新型コロナウイルス感染症対策のための業務システムを構築した札幌市、高知県の社会インフラシステム運用を担うアツミ電子計算センターでのリモートワーク化などの事例を挙げた。
また渡邉氏は、2020年12月の「re:Invent 2020」で最高経営責任者(CEO)のAndy Jassy氏が掲げたキーワードの「持続的再発明」を用い、同イベントで27種類もの新サービスを発表するなど、同社自身が変革のための投資を“深く”“広く”継続していると説明。国内では、大阪のフルリージョン化やKDDIの協業で推進する「AWS Wavelength」などのトピックを挙げている。
2021年3月時点における日本のAWSパートナーは705社(コンサルティングパートナー345社、ISV/テクノロジーパートナー360社)となり、1年間で85社増加した。パートナーによる都道府県のカバレッジも46となり、岩手県を残すのみとなった。渡邉氏は、2020年7月にダイワボウ情報システムとパートナー契約を締結したことで、「全国津々浦々のお客さまにサービスを提供できる体制が強化された」と述べ、2021年中に全都道府県をカバーしたいとの意欲を見せた。
2021年のパートナー戦略では、(1)移行、(2)DX、(3)公共、(4)ISV/テクノロジーパートナー連携の強化、(5)全国カバレッジ、(6)エンジニア育成と企業の内製化支援――の6つの領域を掲げる。
移行では、ユーザーのクラウド化の取り組みがコロナ禍で一時的に停滞するも現在はペースを取り戻し、単にインフラを移行するだけにとどまらず目的が多様化しているとした。主な施策では、大規模な移行案件に対応するための「AWS Migration Acceleration Program(MAP)」や、2020年11月にコーポレートレベルでの戦略的協業を締結したNECとの取り組み、「VMware on AWS」を推進し、顧客の需要が高まるとするSAPシステムやデータベース、仮想デスクトップ基盤などのクラウド移行に、パートナー各社と連携して対応していくとした。
クラウド移行の理由
DXでは、渡邉氏はビッグデータを収集、蓄積する基盤構築から分析、活用の段階に移るとし、特に人工知能(AI)や機械学習技術を用いたビッグデータのユースケースを充実させていく。2020年にパートナー各社が手がけたユーザーのDX事例に触れつつ、現場業務の効率化やコスト削減、事業展開の高速化など、ユーザーのビジネスメリットに直結するクラウドの活用効果をより広めたいとした。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン 執行役員 パブリックセクター 統括本部長の宇佐見潮氏
公共については執行役員 パブリックセクター 統括本部長の宇佐見潮氏が説明。コロナ禍でも公共部門パートナー向けウェブセミナーにはのべ1000人以上が参加し、公共部門パートナープログラムも2016年から毎年40%以上のペースで成長を続けるなど、活発な取り組みであるとした。2021年は、政府の掲げる行政DXの全国展開や教育ITの普及推進、クラウド人材育成などの課題に対し、同社の人材、技術、マーケティング、ノウハウ、ナレッジの広範なリソースを提供することで、パートナーと対応していくという。
公共部門における2021年のパートナー施策
ISV/テクノロジーパートナー連携の強化では、パートナーアライアンス統括本部 テクノロジーパートナー本部長の阿部泰久氏が、AWS MarketplaceやSaaS事業化支援などの施策を説明した。AWS Marketplaceは、2020年9月に日本からの出品条件などを緩和され、パートナーが自社のサービスやソリューションをオンラインで販売しやすくなった。SaaS事業化支援では、「AWS SaaS Factory Insights Hub」「AWS SaaS Boost」「AWS SaaS Lens」の各プロジェクトを展開し、AWS上でSaaSビジネスを検討するパートナーを技術とマーケティングの両面からサポートするとしている。
エンジニア育成と企業の内製化支援について渡邉氏は、AWS認定資格数が2017年から2020年で約6.1倍に増加し、米国とは反対にIT人材の約7割がベンダー側に在籍するとされる日本では、パートナーのエンジニア人材が重要になると述べた。近年は、DXでの競争優位性の確保などを目的にシステムやアプリケーションの開発内製化を志向するユーザー企業が増えている。渡邉氏は、パートナー変革を支援する「ANGEL(APN Next Generation Engineers Leader)道場」を通じて、ユーザーがビジネスでのオーナーシップに集中し、パートナーが開発や構築、運用などでユーザーをサポートしていくユーザーとパートナーの協働による変革推進を形作ると説明した。
「ANGEL道場」プログラムを通じてユーザー内製化支援にパートナーと対応する
これに当たる内製化支援パートナーとしてアイレット、伊藤忠テクノソリューションズ、SCSK、クラスメソッド、サーバーワークス、ウルシステムズ、ARアドバンストテクノロジ、キヤノンITソリューションズ、MMM、Serverless Operationsの10社が紹介された。