AWS re:Invent

AWSのCEOがre:Inventで発表した約30の新サービス一覧

國谷武史 (編集部)

2020-12-02 20:05

 Amazon Web Services(AWS)は12月2日、年次イベント「re:Invent 2020」をオンラインでスタートさせた。今後約3週にわたって開催する。複数回行われる基調講演では、初日に最高経営責任者(CEO)のAndy Jassy氏が登壇し、「持続的再発明」をキーワードに27種類の新サービスを発表した。Jassy氏が触れなかったものを含めると、合計43の新サービスを発表された。

Amazon Web Services 最高経営責任者(CEO)のAndy Jassy氏
Amazon Web Services 最高経営責任者(CEO)のAndy Jassy氏

 9回目となるre:Inventは、例年では米国ラスベガスの複数のホテルを会場に開催される。2019年は約6万5000人を集め、業界では最大規模のイベントだ。コロナ禍の真っただ中にある2020年は、初のオンライン配信による「バーチャルカンファレンス」として行われている。

 講演の冒頭でJassy氏が語ったキーワードは「持続的再発明」だ。同氏は、2019年の講演で「(デジタル)トランスフォーメーションとは再発明」と述べ、2020年は2019年のメッセージに続くものになる。近年は世界中の企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を経営課題とする中、突然のコロナ禍はDXの障壁になりかねない。

 Jassy氏は、コロナ禍でもDXの歩みを止めないために、「常に再発明を続ける文化を醸成すべし」と述べた。同氏は講演の最後でも、先行きが見通せない不安の中に希望を見出すには、「若者に未来があるように企業にも未来がある。しかし、立ち止まってはいけない。フォーカスを定め速いスピードで変化を起こす再発明を続けることが大切だ」と語り、クラウドそして同社が支援していくとした。

 クラウドは、ITのみならずビジネスや社会を変化させる原動力と説くJassy氏だが、それでも企業のIT投資に占めるクラウドの割合はまだ4%に過ぎないという。同じ話題を取り上げた2019年は3%で、1年間の成長はわずか1%。同氏は、そうした市場でAWSが急成長していると力説する。2020年第3四半期時点の売上高は約460億ドルだった。加えて、同氏はGartnerの市場調査も引用。AWSがシェア45%で首位にあり2位以下を大きく引き離しているとした。

2019年の基調講演でも見せた企業のIT投資の内訳。クラウドは4%でこの1年では1%しか増えていないとする
2019年の基調講演でも見せた企業のIT投資の内訳。クラウドは4%でこの1年では1%しか増えていないとする

 Jassy氏の主張は、AWSはクラウドビジネスの中では成功しているが、企業のIT投資とみればニッチな存在ということのようだ。講演の中で同氏は、「持続的な再発明」に欠かせないという8つの要素(リーダーシップ、既存的価値への抵抗、発明志向の人材、問題解決力、スピード、複雑性の排除、広く能力に優れたプラットフォーム、協調かつトップダウンでゴールを目指すけん引力)を挙げた。

 イベント名称の「re:Invent」は「再発明」を意味するが、9回目の開催が世界的な危機にさらされる中で、オンラインという新たな姿に“再発明”された格好ともいえる。Jassy氏の講演は、クラウドが企業ITのニューノーマル(新しい日常)であり、従来のテクノロジーを「再発明」して送り出すことで、企業ITの世界を変革していく同社の取り組みを改めて意識させるものだった。

 講演の中でJassy氏は、AWSがユーザーの声を踏まえて“再発明”した新サービスを、「仮想マシン」「コンテナー/サーバーレス」「ストレージ」「データベース」「機械学習」「コンタクトセンター」「製造IT」「ハイブリッドIT基盤」の領域で紹介した。

EC2関連

 Jassy氏は、EC2(Elastic Compute Cloud)で用途に応じた多様なインスタンスを提供してきたとともに、よりユーザーニーズに応える目的で「Nitro System」や「Graviton」プロセッサーなどを自社開発している意義を説明した(詳細記事)。

  • D3enインスタンス:第2世代Intel Xeon(Cascade Lake)と高密度ディスクストレージ(最大366テラバイト)によるインスタンス
  • G4adインスタンス:小規模な機械学習のトレーニングや機械学習の推論向けとなり、パフォーマンスが約4割向上
  • C6gnインスタンス:Graviton2プロセッサーを利用したインスタンス。最大100Gbpsのネットワーク帯域を利用可能
  • Habana Gaudi-based Amazon EC2 instances:ディープラーニングのトレーニング用途としたインテルのHabana Gaudiを採用するインスタンス。提供時期は2021年上期
  • AWS Trainium:AWSが開発する機械学習のトレーニング専用チップ。テラフロップスクラスの演算能力よる最大限のコストパフォーマンス。提供時期は2021年下期以降(詳細記事

 Jassy氏によると、機械学習ワークロードのコストの大半が予測や推論の処理に割かれ、ここでの性能向上とコスト削減がポイントになる。Habana Gaudi-based Amazon EC2やAWS Trainiumは、そのソリューションになるようだ。

EC2関連サービスは自社開発プロセッサーの重要性が増しているとする
EC2関連サービスは自社開発プロセッサーの重要性が増しているとする

コンテナー/サーバーレス

 Jassy氏によれば、クラウド上のコンテナーの約3分の2がAWS上で稼働し、Elastic Container Service(ECS)、Elastic Kubernetes Service(EKS)、Fargateの3タイプのサービス提供は競合より多いという。Fargateから経験をスタートさせ、目的に応じて複数のサービスを利用するユーザーが多いとして、使いやすさを高めていく方向性を打ち出した。

  • Amazon ECS Anywhere:ECSをユーザーのデータセンターで利用可能にする。クラウドのECSと一貫性のあるコンテナーの利用環境を実現。提供時期は2021年
  • Amazon EKS Anywhere:EKSをユーザーのデータセンターで利用可能にする。クラウドと一貫性のあるコンテナーの運用管理を実現。提供時期は2021年
  • Amazon EKS Distro:EKSで使用しているAWSのKubernetesディストリビューション。オープンソースソフトウェアとしてGitHubで公開予定
  • Amazon Elastic Container Registry Public:Amazon ECRでコンテナーレジストリーを公開可能にした
  • AWS Lambda Container Support:Lambda関数を最大10GBのコンテナーイメージとしてパッケージにし、デプロイできる
  • AWS Proton:コンテナーとマイクロサービスのデプロイを自動実行する。ユーザーは標準テンプレートを利用して一貫性を確保しながら、継続的インテグレーションとデリバリー(CI/CD)構成によるマイクロサービスを維持できる(詳細記事

 Lambdaは、2020年にAWSで開発されたアプリケーションの半数以上で利用されているという。Jassy氏は、より従量課金によるコスト効果を高めるとして、Lambdaの課金単位を100ミリ秒から1ミリ秒に変更することも明らかにした。

AWS Protonの概要
AWS Protonの概要

ストレージ

 「現在1時間当たりに生成されるデータ量は、20年前の時点で1年間に生成されるデータ量とほぼ同じだ」とJassy氏。ストレージは、AWSが最も長く“再発明”を手掛けてきた領域だとした(詳細記事)。

  • gp3 volumes for EBS:ブロックストレージサービスのEBSにおいて3000IOPS、125MiB秒のスループットを提供。最大1万6000IOPS、1000iMB秒のスループット性能の構成も可能
  • io2ボリューム:発表は2020年初頭。最大6万4000IOPSを提供する
  • io2 Block Express:最大25万6000IOPSを提供する。クラウドストレージのスループット性能としては最高クラスをうたう
ストレージサービスでは高スループット化が進む
ストレージサービスでは高スループット化が進む

データベース

 Jassy氏のコメントでは、Amazon Auroraは数十万社が利用するAWSで最も成長ペースの高いサービスであり、今回は利便性や拡張性などの“再発明”を行ったとする。

  • Amazon Aurora Serverless v2:わずか数秒でキャパシティーを拡張でき、ピーク性能に合わせたプロビジョングに比べコストを90%削減。複数のアベイラビリティーゾーンにまたがって使用可能
  • Babelfish for Aurora PostgreSQL:SQL ServerからAmazon Auroraへの移行ツール
  • Babelfish for PostgreSQL:Babelfishを2021年にオープンソースとしてGithubに公開する
  • AWS Glue Elastic Views:フルマネージド型ETL(データ抽出・変換・ロード)のAWS Glueにおいて複数データストアのマテリアライズドビューを容易に構築できる
「Babelfish for Aurora PostgreSQL」の概要
「Babelfish for Aurora PostgreSQL」の概要

機械学習

 AWSは、機械学習モデルのプラットフォーム「SageMaker」を展開するが、Jassy氏は「機械学習はブームだがまだ黎明期にあり、モデルも次から次に“再発明”されている。一般のユーザーでも機械学習を利用しやすい環境を提供し続ける」と述べた。

  • Amazon SageMaker Data Wrangler:データプレパレーションツール。複数のソースからデータを選ぶと、300以上の組み込み変換処理を利用してコードを記述することなく処理できる
  • Amazon SageMaker Feature Store:SageMakerのFeature(予測などのモデルにひもづく属性やプロパティなどの情報)を管理できるリポジトリー
  • Amazon SageMaker Pipelines:目的に応じてSageMakerにおける機械学習のCI/CDパイプラインを作成できる
  • Amazon CodeGuru:機械学習を用いたコードレビューツール。新たにPythonをサポートし、セキュリティ視点の検査も可能に
  • Amazon DevOps Guru:機械学習を用いてアプリケーションの性能を監視し、問題点の抽出や改善提案などを行う
  • Amazon QuickSight Q:機械学習とディープラーニングにより、自然言語での問い合わせに数秒で応じるサービス
ここ数年は機械学習関連サービスの拡大ぶりが目立っている
ここ数年は機械学習関連サービスの拡大ぶりが目立っている

コンタクトセンター

 2017年に発表されたコンタクトセンター機能を提供するクラウドサービス「Amazon Connect」をプラットフォームとして大きく拡張するサービスが発表された。

  • Amazon Connect Wisdom:外部システムとデータ連携するためのコネクター。例えば、配送トラブルの場合に発生箇所や状況などの情報を集約してオペレーターに提供し、顧客に適切な案内を行える
  • Amazon Connect Customer Profiles:外部の各種データソースとも連携して顧客の情報を集約し、よりパーソナライズされた顧客対応を行うための情報をオペレーターに提供する
  • Real-time Contact Lens for Amazon Connect:顧客の感情などを分析する「Contact Lens」サービスの処理をリアルタイム化したもの。顧客とやりとりしている最中でも顧客の感情などを推測してオペレーターの適切な応対を支援する
  • Amazon Connect Task:オペレーターの作業状況を収集、可視化し、スーパーバイザーの管理を支援する
  • Amazon Connect Voice ID:電話音声などの声紋データを使用して顧客を認証する機能。なりすまし防止などへの応用も期待される
コンタクトセンター関連のテクノロジーサービスは、小売が本業のAmazonにあってAWSの独自性が出る領域として確立されつつある
コンタクトセンター関連のテクノロジーサービスは、小売が本業のAmazonにあってAWSの独自性が出る領域として確立されつつある

製造IT

 スマートファクトリーに代表される製造業のデータ活用を支援する機械学習を活用した新機能を拡充している(詳細記事)。

  • Amazon Monitron:センサーとゲートウェイ、機械学習サービスで構成される。いわゆる「ポン付け」の専用装置を設備に取り付けるだけで、クラウドへのデータアップロードや故障検知といったモデル開発の準備ができる
  • Amazon Lookout for Equipment:設備の予防保全に特化した異常検知サービス
  • AWS Panorama Appliance:既設のカメラに組み込むだけで映像品質チェックなどができるサービス
  • AWS Panorama SDK:カメラ機器メーカー向け。AWS Panorama Applianceを製品に組み込むソフトウェア開発キット
  • Amazon Lookout for Vision:AWSで開発したモデルを利用して画像や映像から異常や欠陥を検知するサービス
日本では、製造業のさまざまな企業で動画像による品質検査やデータのAI分析による予防保全などの研究開発が進むが、AWSもこの分野に技術を広めつつある
日本では、製造業のさまざまな企業で動画像による品質検査やデータのAI分析による予防保全などの研究開発が進むが、AWSもこの分野に技術を広めつつある

ハイブリッドIT基盤

 AWSに限らず多くのIaaSが、これまでオンプレミスのワークロードをクラウドデータセンターに取り込むことに注力してきた。しかし現実には、ワークロードに応じて最適な稼働環境を選択したり、組み合わせたりすることが求められ、逆にIaaS環境をオンプレミスに展開するアプローチも広がる。AWSは、2019年にアプライアンスを用いた「Outposts」をリリースしている。

  • 新型Outposts:従来のフルラックモデルに1Uと2Uの新モデルを追加。1Uモデルは64vCPU、128GiBのメモリー、4TBのNVMeストレージ構成。2Uモデルは128vCPU、512GiBのメモリー、8TBのNVMeストレージ構成。AWSがリモートで運用管理する
  • AWS Local Zones:AWSのフル機能リージョンが近くに所在しない地域のためのサービス。ロサンゼルスを皮切りに、ボストン、ヒューストン、マイアミでも開始され、2021年は米国12都市に拡大する。日本は世界唯一とされた「ローカルリージョン」の大阪が東京と同様のフルリージョンに増強されるため、AWS Local Zonesの展開は計画されていないようだ
  • AWS Wavelength:2019年に発表された通信事業者の設備で利用するAWSのリソースサービス。日本ではKDDIがパートナーだが、今回は東京で利用できることが正式発表された
フルラック構成だったOutpostsが小型化した。HCI機器も小型化する昨今では自然な流れだろう
フルラック構成だったOutpostsが小型化した。HCI機器も小型化する昨今では自然な流れだろう

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