NECとAmazon Web Services(AWS)のコーポレートレベルでの戦略的協業締結について、NEC 執行役員の吉崎敏文氏とアマゾン ウェブ サービス ジャパン パートナーアライアンス統括本部 執行役員の渡邉宗行氏がインタビューに応じ、協業の背景と方向性について説明した。
NEC 執行役員の吉崎敏文氏(左)とアマゾン ウェブ サービス ジャパン パートナーアライアンス統括本部 執行役員の渡邉宗行氏(写真提供:NEC)
吉崎氏は、協業のポイントに(1)政府・金融・医療向けにクラウドのマネージドサービスを提供、(2)SAPシステムのクラウド化、(3)AWS認定ソリューションアーキテクト3000人体制への増強ーーを挙げる。
(1)では、AWS環境に構築された総務省の第二期政府共通プラットフォームをNECが運用することから、そのノウハウを元に各業界向けにサービスビジネス化する。吉崎氏は、「世界標準のServiceNowを利用したIT運用管理や、ISMAP(政府情報システムセキュリティ評価制度)など業界規制への対応を始め、NECの運用実績をドキュメント化し再利用していく」とした。
NECの行政向けクラウドサービス
(2)では、6月に開始したNECグループ11万人が利用するSAP ERPシステムのAWSへの移行プロジェクトにおける経験を将来ビジネスに反映する。ここでは、4000人のSAP認定コンサルタントを有するアビームコンサルティングのリソースや手法、フレームワークなどを活用する。SAPシステムをAWSに移行するケースとしては、NECのプロジェクトは日本最大規模という。
NECはSAPシステムをAWSに移行中
(3)では、現在1500人の認定ソリューションアーキテクトを2023年までに3000人に増やす。特に「アソシエイト」「プロフェッショナル」クラスを増強し、上位層の「アーキテクト」「ウェルアーキテクテッドリード」に育成することで、世界有数規模の体制にするとしている。
AWS認定資格者を倍増する
渡邉氏は、「NECは官公庁における存在感がある。また、AWS認定資格者数は世界的にも多い。米国はIT人材の65%がユーザー側にいるが、日本は70%がベンダー側にいるため、ベンダー側のクラウドスキルの醸成が急務。NECはその点でとても努力されている」とし、「日本にとどまらない取り組みになり、(米国本社と直接的に)グローバルで戦略的に進めていくことになった」と語った。同様の協業形態は、他にAccentureやNew Relic、F5 Networksなどがあるという。
狙いはITの近代化
AWSへの期待について吉崎氏は、「日本は全体的にITのモダナイズ(近代化)がこれからやって来る。コロナ禍でもその動きは進んでいる。モダナイズをやるなら世界規模でやりたい」とコメントした。
同氏が挙げた協業のポイントでは、“リフト&シフト”と呼ばれるERP(統合基幹業務システム)のクラウド化が目玉になるようだが、「ERPはあくまでクラウド化する中のアプリケーションの1つ。サプライチェーン管理もあり、NECが強みとする(顔認証などの)生体認証や(5Gなどの)通信を生かす」と述べている。
NECから協業を持ちかけ
吉崎氏は、今回の協業をNECからAWSに持ちかけたと明かした。協業自体は2012年からだが、クラウド関連技術への対応強化を検討する過程でビジネス面を含むより広範な連携を模索し、2019年夏頃に交渉をスタートさせたという。AWS 最高経営責任者のAndy Jassy氏とNEC 社長CEOの新野隆氏とのトップ会談も行われ、2020年5月に契約を締結した。
なお、吉崎氏は「外資系IT企業出身(日本IBM)の経験で言えるのは、最先端のテクノロジーを正しく理解して日本に持ち込み、お客さまにいち早くお届けする役割が非常に重要だということ。NECが目利きとしてAWSの先端技術を日本のお客さまにお届けし、日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)をご支援する」とした。
AWSを含めたマルチクラウド
NECは、Microsoftとも協業しており、Microsoft 365やAzureなどのクラウドサービスの販売、システム関連サービスを展開する。吉崎氏は、「AWSと本格的な協業体制を推進していくが、NECのスタンスはマルチクラウドにある」と話した。
吉崎氏によれば、クラウド時代におけるシステムインテグレーター像を模索する中でNECのクラウド事業体制を再構築し、4月には、今回の協業を含めDXビジネス全体の骨格となる「NECデジタルプラットフォーム」を策定している。
NEC自体もIaaS(NEC Cloud IaaS)を長らく提供しているが、「AWSとの協業でやめるわけではなく、むしろ強化していく。お客さまの要望に応じてNEC Cloud IaaSが必要となるシーンもある」(吉崎氏)と、あくまでマルチクラウドのスタンスにあることを強調した。