米国と中国の緊張関係をはじめとして、グローバルにおける経済安全保障や地政学リスクに注目が集まっている。その重要な要素となっているのが、情報セキュリティだ。今後のビジネスにおいて企業は何に注意し、どう対処すればよいか。情報セキュリティ分野のキーパーソンに聞いた。
経済安全保障や地政学リスクは「データ覇権争い」の側面も
情報セキュリティはこれからテクノロジーだけでなく、経済安全保障や地政学リスクという観点でもしっかりと論議し、対応していく必要がある。今回の「一言もの申す」はこうした思いで話を進めたい。
本連載ではこれまで、地政学リスクについては話題に取り上げたことがあるが、経済安全保障については初めてなので、まず言葉の意味を述べておくと、「軍事転用可能な技術の流出防止や輸出管理など経済と安全保障が密接に絡む分野」のことを指す。
写真1:トレンドマイクロの大三川彰彦取締役副社長
この経済安全保障や地政学リスクにおいて、非常に重要な要素となっている情報セキュリティに対し、企業はどう取り組めばよいのか。そんな視点でキーパーソンに話を聞きたいと思っていたところ、セキュリティソフトウェア大手でこうした動きに対する新たな取り組みも始めたトレンドマイクロの大三川彰彦取締役副社長に取材する機会を得た。情報セキュリティに精通し経営者でもある同氏に、新時代に向けた企業の立ち居振る舞い方を聞いた(写真1)。
経済安全保障や地政学リスクでの情報セキュリティにおいて、大三川氏がまずキーワードとして挙げたのは「データ」だ。「データの覇権争いが情報セキュリティの観点から見て最大のリスクになり得る」というのが、同氏の見立てだ。
なぜ、データの覇権争いが起きるのか。「さまざまなデータを収集して分析し、さまざまな動きの自動化や予測に活用する高度なテクノロジーがどんどん出現してきている中で、経済活動においてもその影響力が大きくなってきている。さらに、それを増大させるためには、一段と価値のあるデータを手に入れることが求められるようになる。この動きが国家や企業の間でのデータ覇権争いに発展していく」と、同氏は説明した。
では、今後そうした動きが活発化していくと見られる中で、企業活動において何に注意し、どう対処していけばよいのか。そのキーワードとなるのが「データ保全」だ。データの覇権争いに巻き込まれないように、自分たちのデータをしっかりと守るということだ。そのためには、「データをどこに保管してどのように管理するかという『データガバナンス』が非常に重要になってくる」と、同氏は強調した。