富士通の直近四半期決算の内容を聞いて、筆者は「DX(デジタルトランスフォーメーション)需要を取り込めていないのではないか」と感じた。同社がDXを中心とした「成長事業」と位置付ける領域がマイナス成長だったからだ。なぜ、そうなってしまったのか。会見で質問をぶつけてみた。
DXの「For Growth」と従来型ITの「For Stability」の最新動向
富士通が7月29日に発表した2021年度(2022年3月期)第1四半期(2021年4〜6月期)の連結業績は、売上収益(売上高に相当)が前年同期比0.1%減の8019億円、営業利益が同51.5%増の337億円と、減収増益だった。
写真1:富士通 取締役執行役員専務 兼 CFOの磯部武司氏
同社 取締役執行役員専務 兼 CFO(最高財務責任者)の磯部武司氏は同日オンラインで開いた発表会見で、「新型コロナウイルス感染拡大の影響が続いている状況で、売上収益は前年並みの水準にとどまったが、全ての事業領域で採算性が改善したため、大幅な増益となった」と、直近の四半期を振り返った(写真1)。
筆者がこの決算発表の内容で疑問を感じたのは、「富士通はDX需要をしっかりと取り込めているのか」ということだ。そう感じたきっかけは、磯部氏が決算説明のために示した図表の中で、表1が目に留まったからだ。
表1:テクノロジーソリューション事業における「For Growth」と「For Stability」の売上収益の実績(出典:富士通)
この表は、主力のテクノロジーソリューション事業における売上高を「For Growth(成長事業領域)」と「For Stability(安定事業領域)」に分けて記したものである。それぞれの事業領域を一言で表せば、For Growthは「デジタル」、For Stabilityは「従来型IT」だ。とりわけ、For Growthの内容を明確にしてその成長をさらに加速していくことを、同社として強く意思表示した形である。
ちなみに、富士通が事業の内容や業績についてこうした開示の仕方をしたのは、2020年10月に開いた2020年度(2021年3月期)中間決算の説明会が最初だ。その経緯や背景については、2020年11月5日掲載の本コラム「日本企業は決算発表で成長する事業領域を明確に語れ」で解説したので参照していただきたい。
また、同社が4月28日に開いた経営方針説明会では、代表取締役社長の時田隆仁氏が2022年度(2023年3月期)を最終とする中期経営計画に向けたFor Growthの目標と注力分野を明らかにした。その内容についてはFor Growth分野の分社を提案した筆者の質問に対する回答と併せて、5月6日掲載の本コラム「『成長事業をさらに伸ばすために分社してはどうか』と富士通 時田社長に聞いてみた」を参照していただきたい(図1)。
図1:中期経営計画に向けた「For Growth」と「For Stability」の売上収益の予測(出典:富士通)