量子コンピューティングとは何か--仕組み、用途、重要な理由などをまとめて解説

Daphne Leprince-Ringuet (ZDNET.com) 翻訳校正: 川村インターナショナル

2021-11-26 07:30

研究者は量子の世界のすべてを理解しているわけではないが、量子粒子の可能性は非常に大きく、特に大量の情報の保持と処理に関して計り知れない可能性を秘めていることは分かっている。<br>提供:IBM
研究者は量子の世界のすべてを理解しているわけではないが、量子粒子の可能性は非常に大きく、特に大量の情報の保持と処理に関して計り知れない可能性を秘めていることは分かっている。
提供:IBM

量子コンピューティングの概要と仕組み

 量子コンピューティングで利用するのは、自然界のごく小さな粒子、すなわち原子、光子、電子などで科学者が何十年も観察してきた不可解な振る舞いだ。ここまで微細な規模になると、古典物理法則が通用しなくなり、代わりに量子規則が適用される。

 研究者は量子の世界のすべてを理解しているわけではないが、量子粒子の可能性は非常に大きく、特に大量の情報の保持と処理に関して計り知れない可能性を秘めていることは分かっている。これらの粒子を量子コンピューターでうまく制御できれば、演算能力が飛躍的に向上し、創薬、気候モデル、金融最適化、物流など、複雑な計算を必要とする多くの分野でイノベーションが目覚ましい進歩を遂げる可能性がある。

 IBMの最高量子提唱/解説者(CQE)であるBob Sutor氏は次のように表現する。「量子コンピューティングとは、自然をエミュレートし、非常に困難な問題を解決して扱いやすくするための手段だ」。同氏は米ZDNetにこう語った。

量子コンピューターとは

 量子コンピューターは多様な形状と形態をとるが、構築の基礎となっている原理はどれも同じだ。すなわち、量子プロセッサーを搭載し、量子粒子を分離して、エンジニアが操作できるようになっている。

 こうした量子粒子の性質や、量子粒子を制御するために採用される方法は、量子コンピューティングのアプローチによって異なる。プロセッサーを氷点下まで冷却しなければならない方法もあれば、レーザーを使用して量子粒子を操作する方法もあるが、これらに共通する目標は、量子物理学の価値を最大限に引き出す方法を見つけることだ。

量子コンピューターと古典コンピューターの違い

 1940年代から使われているさまざまな形態のシステム、すなわちノートPC、スマートフォン、クラウドサーバー、スーパーコンピューターは、古典コンピューターとして知られている。これらはビットという情報単位をベースとしており、デバイスで発生するすべての計算でこのビットが使用される。

 古典コンピューターでは、各ビットが1または0のいずれかの値をとって、計算の実行に使用される情報を表現し、伝えることができる。開発者はビットを使用してプログラムを記述できる。プログラムとは、コンピューターが読み取って実行する一連の命令のことだ。

 古典コンピューターはこの数十年間で不可欠なツールとなっているが、ビットは柔軟性に欠け、制限がある。たとえるなら、干し草の山の中から1本の針を探す必要がある場合、古典コンピューターだと、針が見つかるまで干し草を1つずつ調べていくようにプログラムしなければならない。

 そのため、古典デバイスでは解決できない大きな問題がまだ数多くある。「古典システムで実行可能な計算もあるが、何百万年もかかるか、地球上に存在するコンピューターメモリーの合計よりも多くのメモリーが必要になる可能性がある」とSutor氏。「これらは今のところ手に負えない問題だ」

量子コンピューターが古典デバイスより優れている点

 すべての量子コンピューターの中心には、キュービットがある。これは量子ビットとも呼ばれ、大まかに言うと、古典コンピューターで情報を処理するビットに相当するものだ。

 ただし、キュービットは、自然界にある量子粒子でできているため、ビットとは大きく異なる特性を持っている。これらの粒子は、科学者を長年悩ませてきた。

 量子コンピューティングに最も役立つ量子粒子の特性の1つは、「重ね合わせ」として知られるものだ。これにより、量子粒子は同時に複数の状態で存在することができる。重ね合わせは、コイン投げを想像すると分かりやすいだろう。量子粒子は、表向きや裏向きで静止したコインではなく、空中で回転しているコインだ。

 量子粒子を制御することで、その粒子にデータを載せて、キュービットを作成することがきる。また、重ね合わせにより、1つのキュービットが1か0のどちらかである必要はなく、同時に両方になることができる。言い換えるなら、古典ビットは表か裏のどちらかにしかできないが、キュービットは同時に表と裏にできるということだ。

 そのため、問題の解決を求められた量子コンピューターは、キュービットを使用して同時に複数の計算を実行し、多数の異なる経路を並行的に検討して、答えを見つけることができる。

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