パナソニックの情報システム部門改革--CIOが語る「PX」のいま

大河原克行

2022-07-04 06:00

 パナソニックグループは、同社のデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略である「PX(Panasonic Transformation)」を推進している。このほど行った説明では、情報システムの刷新やデジタル化の推進などによる「ITの変革」だけにとどまらず、組織構造や協力会社との関係の見直しなどを含む「オペレーティングモデルの変革」、内向き仕事の排除やオープンでフラットな職場、サイロ化からの脱却などによる「カルチャーの変革」にも取り組む考えを示した。

伝統で陥った内向き志向

 同社の現在の取り組みは「PX 1.0」としている。ここでは、レガシーモダナイゼーション(古い情報システムの刷新化)やデータ利用環境の整備、クラウド化、サプライチェーン管理(SCM)の整流化などに取り組む足元を固める時期と定義。その上で、2024年度後半には、多くの領域を「PX2.0」へと移行させながら、デジタルを活用したビジネスモデル変革、Blue Yonderや人工知能(AI)、機械学習(ML)などの技術を活用したシステム構築に、本格的に取り組むことになる。

「PX(パナソニックトランスフォーメーション)」の展開
「PX(パナソニックトランスフォーメーション)」の展開

 パナソニック ホールディングス 執行役員 グループCIO(最高情報責任者)の玉置肇氏は、「環境と暮らしや仕事のウェルビーイングに貢献するには、パナソニック自身の競争力を身に付けなければならないが、足元の情報システム基盤はボロボロ、バラバラだ。これに手を入れていくのがPXであり、『PDX(パナソニックのDX)』ではなくPX(パナソニックの変革)としたのは、パナソニックを変えていかなくてはならないという意味がある」と語る。

 そして、「常にPXを経営アジェンダの中に置き、楠見(グループCEO:最高経営責任者の楠見雄規氏)がオーナーとして活動を推進する。事業の競争力強化に向けて、働き方やビジネスのやり方を含めて変革し、経営のスピードアップを目指す」とした。

 パナソニックグループでは、PXを競争力の強化に向けたグループ共通の重点施策に位置付ける。パナソニックホールディングスの楠見氏も「パナソニックグループが卓越したオペレーション力を獲得する上で不可欠な取り組みになる」と発言している。

パナソニック ホールディングス 執行役員 グループCIOの玉置肇氏
パナソニック ホールディングス 執行役員 グループCIOの玉置肇氏

 今回の説明で玉置氏が最初に示したのは、パナソニックグループの情報システム戦略における課題だ。

 「パナソニックグループの情報システム部門は国内外で約2700人の陣容を誇り、優秀な人材ばかりだ。それにもかかわらず、なぜ私が(パナソニックの)外から来なくてはならなかったのか。それは外からの力で情報システム部門を立て直さなくてはならないと、経営が考えたから」と述べる。

 情報システム部門の立て直しが必要になった背景に、同社の伝統と歴史がもたらす呪縛、強い内向きの“重力”、標準化への対応の遅れなどがあるという。

 玉置氏によると、パナソニックグループの前身である松下電器産業時代に、情報システム部門の社員は「情報職能」と位置付けられてきた伝統と歴史がある。また、パナソニックの情報システムは複雑で規模が大きく、「それだけで王国のような形」(玉置氏)となっている。

 「本来なら、情報システム部門は経営と寄り添い、歩調を合わせる必要があるが、経営側はITのことが分からず、情報システム部門も口を出してほしくないという状況が生まれていた。その結果、事業部が喜ぶものを作ることが繰り返され、内向きの重力が強くなり、自分たちを守ることにつながり、世の中の標準から外れることになる。その最たる例がクラウド化への遅れだ」(玉置氏)

 具体的には、既存の情報システム資産の償却が完了していないために、クラウド移行ができなかったり、資産償却で経営側と会話をしなければならないものの、それを行わずそのままになったりするなど、組織的にクラウドへの移行ができない状況に陥っていた。さらに、事業部ごとに個別のシステムが構築され、マスターデータの整備や業務の標準化などに誰も着手できない状況だった。こうした課題があるにもかかわらず、「ふたをしていた状況だった」と玉置氏は指摘する。

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