ITサービス管理大手のBMCソフトウェアがこのほど、企業のエンドユーザー向けモバイルツールを発売した。バックエンド製品の老舗がフロントエンド製品を初めて投入した背景には、最高情報責任者(CIO)に向けた強い思いがあるようだ。
IT部門とエンドユーザーのギャップに対処
「ソーシャル、モバイル、クラウドといった新しいトレンドによって、企業のITシステムは大きく変わろうとしている。しかし、多くのIT部門がその変化をとらえて社内のエンドユーザーに満足の行くサービスを提供できていない」
米BMC SoftwareのCTO(最高技術責任者)を務めるSuhas A. Kelkar(スハスA・ケルカー)氏は、同社の日本法人BMCソフトウェアが先ごろ開いた新製品説明会でこう切り出した。
左から、米BMC Software CTOのSuhas A. Kelkar氏、BMCソフトウェア社長のMike Alford氏、同シニアプリセールスコンサルタントの松本浩彰氏
BMCソフトウェアがこのほど日本市場向けに発売した新製品は「MyIT」と呼ぶモバイルアプリケーションだ。企業内のさまざまなITサービスに対し、エンドユーザーである従業員が必要なときにいつでもどこでも、任意のデバイスから欲しい情報やサービスを、従業員ひとり一人の権限に合わせて利用できるようにしたものである。
Kelkar氏の冒頭の発言は、BMCがこのMyITを生み出した、いわば問題意識である。同氏はこの問題を「企業におけるIT部門とエンドユーザーの間に生じている認識のギャップ」だと指摘。MyITを活用することによって、従業員の満足度はもちろん、ビジネスの生産性向上やIT関連コストの削減、さらにはITサービスの効率的な運用が図れるようになるとしている。
BMCはMyITを1年ほど前に米国市場で販売開始したが、このほどデバイス対応を広げるとともに、同社の主力サービスの1つであるSaaS型ヘルプデスクソリューション「Remedyforce」と連携したクラウドサービスとしても提供可能にするなど大幅に機能強化を図ったことから、日本でも日本語版として市場投入する運びとなった。
CIOに求められる3つの役割
BMCの今回の動きで興味深いのは、創業以来34年にわたって企業のバックエンドシステムのITサービス管理分野をリードしてきた同社が、初めてエンドユーザーに向けたフロントエンドソリューションを投入したことだ。ただ、先に紹介した問題意識からも読み取れるように、同社がMyITを提案する顧客先は経営層やビジネス部門ではなく、これまでのITサービス管理製品と同様にIT部門、さらに言えばCIOである。
個別取材に応じた Kelkar氏はこの点について、「これからのCIOは、Iとしてインフォメーションだけでなく、インテリジェンスとイノベーションの推進を合わせた3つの役割を担っていかなければならない。MyITはそうした3つのIに果敢に挑む“CI3O”を強力に支援したいと考えて商品化した」とCIOへの思いを語った。ちなみに同氏によると、インテリジェンスはビッグデータアナリティクス、イノベーションは新しいビジネスの創出を指すという。
同じく個別取材に応じたBMCソフトウェア社長のMike Alford(マイク・アルフォード)氏からも、日本市場でのMyITのポテンシャルについてこんな話が聞けた。
「企業におけるIT部門とエンドユーザーの間のギャップについて、日本は米国と比べてもかなり開きがあると実感している。その理由は、日本では特にエンドユーザーから、ITについては全てアウトソースすればいいという声が大きくなりつつあるからだ。一方、米国ではITがイノベーションを生むという考え方がエンドユーザーにも広がり、改めてIT部門の役割が見直されつつある。同様に日本企業のIT部門の役割も見直されるべきだ。MyITはそうしたIT部門によるエンドユーザーへの貢献に大いに役立つと確信している」
こうしてみると、ITサービス管理分野においてIT部門の課題と長年にわたって向き合ってきたBMCだからこそ、今回の新製品を生み出せたとも言えそうだ。ただ、特に日本企業のCIOとIT部門が本当にフロントエンドのモバイル利用までマネジメントすることができるかどうか。それこそ一大改革のつもりで取り組む姿勢がまず求められるだろう。