米IBMは2013年11月、モバイル端末管理(MDM)システムを提供する米Fiberlinkの買収を表明した。正式にはまだ手続き中だが、今後、MDMシステムを日本でも提供する。
MDMは、私物端末の業務利用(BYOD)を効率よく管理できるとして、日本でも注目を集めている。来日したFiberlinkのClint Adams氏に、BYODの日米でのとらえ方の違いやウェアラブル端末などが普及する今後のデバイス環境も含めて話を聞き、企業ITにおけるモバイル端末の在り方について展望を聞いた。
FiberlinkのClint Adams氏
FiberlinkはMDMの領域で10年の実績を持ち、5000社の顧客を持つ。“コンテナ”と呼ぶ仕組みでタブレットの左半分を仕事用、右半分を個人用といったように分け、端末を管理する製品「MaaS360」を提供する。
米国では、General Motors(GM)やEASTMAN、GSAなどの企業が導入しているという。GMは、iOSやAndroid、Windows 8など5万端末を管理。暗号化機能を持たない古いバージョンのAndroidでもセキュリティを担保できるのが特徴だ。
Adams氏は「日本と米国ではBYODの進み方がかなり違う。米国ではもはや90%の企業が何らかの形でBYODを実施するようになっている」と話す。
端末管理、システムとしての管理、データセキュリティの面から「ITの機能が課題に追いつこうとしている」。米国では、メールを私物端末で閲覧するニーズが引き金となり、BYODがかなり広がってきており「日本はもっと保守的な状況と認識している」とのこと。
医薬品メーカーのPfizerは、さまざまなデバイスをユーザーが選び、400に上るアプリケーションから自由に使いたいものを選べるプラットフォームを構築し、運用している。
Adams氏の認識では、しっかりとした管理意識から日本企業ではBYODが進んでいないとの見解だったが、このあたり実情は異なるかもしれない。日本でも、既に多くの企業のエンドユーザーがメールをはじめさまざまなシステムに私物端末でアクセスするようになっている。
裏を返すと、IT部門などはこうした利用方法を公式には認めてないケースも多く、コンプライアンスという観点で言えば、企業としてリスクとして認識すべき状況と言える。
IBMは、こうした動きに呼応するように、モバイル向けに機能を提供するさまざまな企業の買収に動いている。
ここで紹介したMDMのFiberlinkのほか、モバイルアプリケーション開発の「IBM Worklight」、モバイルセキュリティの「Trusteer」、モバイルアナリティクスの「Tealeaf Technology」などだ。
IBMはアプリケーション開発のプラットフォームとして「Bluemix」の展開を打ち出した。これにより、モバイルを含めたアプリケーションの開発から導入、デバイス管理、セキュリティに至るまで、システムのライフサイクル全体を管理するというニーズを取り込める。このあたりを実現するために、モバイル系の企業を次々に買収しているというのがIBMの狙いと見ていい。
IBMはFiberlink買収後、自社で利用していた既存のMDMの利用をやめ、25日でFiberlinkにシステムを移し、7万5000端末を管理し始めたとのこと。既に端末数は10万に達したとAdams氏は指摘する。
Android端末の利用拡大も
今後の展開について考えられるのは、例えばAndroid端末の利用拡大だという。これまで、日本で法人向けに普及していたのはiPhoneやiPadだった。Appleの端末が垂直統合型の仕組みで比較的セキュリティがしっかりしていることが理由として挙げられる。
Android端末は、Googleがかなりの支配力を持っているのが実情とはいえ、ソフトウェアと端末を別のメーカーが設計するため、1社で完結するApple製端末よりもハードウェアを含めた安全設計が難しく、法人が採用するにはセキュリティ面の不安が大きかった。
だが、今回のFiberlinkのように、コンテナ領域を確保して端末を管理するソフトウェアを利用することで、Android端末も安全に利用できるとAdams氏は強調した。