解禁間近の「ネット選挙」で勝つIT戦略とは--「Obama for America」に学ぶ

大川淳

2013-03-25 19:05

 選挙活動に電子メールやソーシャルメディアを使う「インターネット選挙」解禁に向け、動きが本格化してきている。実現を見据え、公職選挙法改正案が国会で審議入りしており、夏の参議院議員選挙にもネット選挙が導入される可能性があるという。

 ネット選挙の成功事例といえば、2012年11月に実施され、現職で民主党のバラク・オバマ氏が再選された米大統領選挙だ。オバマ大統領の勝利を支えたのはIT、それもクラウドの貢献が大きかったと言われる。

 彼の選挙運動の主体「Obama for America」の中核となったのはAmazon Web Services(AWS)だった。世界最大の選挙の1つといえる米大統領選の舞台裏で、オバマ氏はクラウドをどのように使いこなしたのか。ネット選挙運営のノウハウや注意点をオバマ氏の取り組みから学ぶことにする。

Amazon Web ServicesのマネージャーでソリューションアーキテクトのMiles Ward氏
Amazon Web ServicesのマネージャーでソリューションアーキテクトのMiles Ward氏

短期決戦、限られた予算、クラウドが最適

 Obama for Americaには4万人のボランティアが参加し、10億ドルの寄付金を集めた。多数のボランティアの活動を管理し、彼らの効率的な相互協力を促し、知恵を共有するためのシステム基盤は巨大なものになった。

 200に上るモバイル向けアプリケーションが用いられ数百におよぶテストされていない新しい分析手法や、数千台のサーバによる数百TBのデータ処理需要があった。

 Amazon Web ServicesのマネージャーでソリューションアーキテクトのMiles Ward氏は「このような“ビッグデータ”の解析にはイノベーションが求められた。しかし、システム構築のための期間はわすか7カ月。予算も限られていた」と打ち明ける。

 当初Obama for Americaでは、古いコンピュータを買い、システムを構築しようと考えたが「何台の、どんなコンピュータを購入すれば、システムが稼働できるか。選挙運動が大きくなればなるほど、それに耐えるシステムが必要になり、事前にどのくらいの処理能力があればいいかといった予測は不可能だった。選挙後はコンピュータを廃棄しようと考えていた」(Ward氏)。

 これらの課題を解決するためにはクラウドの適用が不可欠だったようだ。必要な要素の追加が容易で、目的達成後の撤収もしやすいからである。

「疎結合」が大きく貢献、多様なソリューションが運動を効率化

 「Obama for America」の中核となったAWSでは、Elastic Load Balancer、ElastiCache、RDS、CloudSearch、Route53、S3など多くのサービスが利用された。Ward氏は「(システム単位間のつながりが薄い)疎結合なシステムを基本にしたことが大きく成功に貢献した」と強調する。

 システム設計に着手する際、次のような4つの懸念があったという。

  • 多くの言語を使用するとオペレーションが複雑化する
  • クラウドはインフラの制御がしにくい
  • 多様なアプリケーション中心のデータベースは基盤が脆弱になる
  • SOA(サービス指向アーキテクチャ)を中心としたシステム統合は開発者を混乱させる

 Ward氏は「システムダウンは絶対に許されない。疎結合であれば部分的に障害があってもそこだけ切り離せばいいので全体に影響を与えずに修正できる。結果的に懸念は杞憂に終わってよかったが」と話す。

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