企業の情報システムがクラウド化に向かうとの指摘が強くなり始めて数年が経ち、その間も常に引き合いに出される存在だったのが、Amazon.com傘下のAWS(Amazon Web Services)が2006年から提供するパブリッククラウドだ。
現在「データベース」領域ではRDB、NoSQL、分散型メモリキャッシュ、「サービス」領域ではメール配信、通知サービス、キューサービス、ビッグデータの分析で利用される分散処理(Elastic MapReduce)、「ネットワークおよびインフラ」領域では、仮想外部ディスク、ロードバランサー、大規模ストレージ(S3)、仮想サーバ(EC2)、DNS、コンテンツ配信といった幅広い分野でサービスを展開している。
「15年間にわたりAmazonのあらゆるビジネスを見てきた」と話すジャシー氏
パブリッククラウドにはセキュリティの不安があるとの指摘がある傍らで、東京証券取引所をはじめとしたクリティカルなビジネスにAWSを採用をする企業も増えた。先日は、AWSの東京リージョンが、北米や欧州など世界に7カ所ある中で、初年度として最大の成長率を記録したことも明らかにした。AWSがユーザーに受け入れられつつある理由は何か。来日した米AWSのシニアバイスプレジデント、アンディ・ジャシー氏に話を聞いた。
--AWS東京が、米国、欧州、アジア、南米に展開する各リージョンの中で、当初1年で最も高い成長を見せたと発表しました。その要因は何でしょうか。
日本にはAWS東京リージョンを立ち上げる前から既に数千に上る顧客がいたことが大きな要因です。その顧客は、より低いレイテンシーでAWSを使うことを望んでおりました。東京リージョンの開設により、レイテンシは一桁台の数ミリ秒になったことで、多くの顧客が利用するようになりました。
東京リージョンをオープンしたのは、2011年3月11日の東日本大震災 の1週間前でした。震災により、事業継続計画(BCP)への意識が高まり、システムをクラウド上に置こうとする企業がAWSを検討するようになりました。東京リージョンに複数のデータセンターを設置しており、ディザスタリカバリ(DR)の体制を構築できます。
場合によっては、バックアップ拠点を米東海岸の北バージニア、同西海岸の北カリフォルニアおよびオレゴン、欧州のダブリン、アジア太平洋のシンガポールおよび東京、南米のサンパウロなど、世界の各地に置けることを評価する企業もあります。
もちろん、災害対策だけでなく、スタートアップ企業から大企業にいたるまでさまざまな組織がAWSを利用しています。日本では東京証券取引所や三井物産、米国では米国連邦政府もユーザーです。
--AWSの利用範囲が従来のイメージよりもかなり広がっていると感じます。逆に、AWSを使わないという選択をする企業があるとすると、それはどんな理由からでしょうか。
技術面からは特定のものはないといえます。あるとすれば心理的なものと考えます。最高情報責任者(CIO)が、AWSのようなクラウド上に自社のシステムを置いて、本当に管理できるのか心配するようなケースです。でも、今は多くのCIOから信頼を得ています。コスト削減と同時に俊敏性を高められ、人材をよりビジネスの競争力を高める領域に配置できるからです。
ただし、既に大きなIT資産を持つ企業で、そのシステムへの依存度が高い場合などは、なかなかAWSへの移行は難しいようです。