2009年4月以降、受託ソフト開発やシステム導入プロジェクトの進め方が大きく変わる可能性が出てきた。「工事進行基準」の適用が原則的に始まるからだ。大手コンサルティングのベリングポイントは6月20日、その工事進行基準について説明会を開催した。
工事進行基準とは、企業会計において売り上げを、“工事”の進捗状況(つまりシステム導入プロジェクトの進捗)にあわせて売り上げを計上することを指す。
ソフトウェア業界ではこれまで、情報システムが完成し、引き渡しが完了した(つまり検収が終わった)時点で売り上げに計上する「工事完成基準」を採用していた。工事完成基準が工事進行基準に変更になったのは、会計における国際基準と日本基準との差異を埋めていこうとする動きによるものだ。
工事完成基準と工事進行基準との違いは、たとえば、10年間で100億円のビルを建築する時に、工事完成基準では、完成した時点で100億円が企業会計に反映されることになるが、工事進行基準の場合、10年の間にたとえば1年で10億円ずつ売り上げとして計上することになる。その違いについて、ベリングポイントのシニアマネージャーを務める山田和延氏は「会計とは、企業の実態を表すもの。完成基準では、10年間に100億円のビルを建築しているという企業の活動実態を表すことができない」と表現している。同氏は、工事進行基準と工事完成基準のメリット・デメリットをこう解説する。
「工事進行基準は企業の実態を表しやすいというメリットがあるが、売り上げに恣意性が入りやすいというデメリットがある。それに対して、工事完成基準では、客観的・確実な売上計上方法というメリットはあるが、企業の実態と乖離するというデメリットがある」
工事進行基準では、「工事収益総額」「工事原価総額」「工事進捗度」の3つがあって初めて適用できる(この3つがない状況では工事完成基準が適用される)。工事収益総額とは、工事契約の対価であり、金額が決定していることと工事を完成させる能力があるということが必要になる。
工事原価総額とは、工事に必要な原価の見積総額を指す。実際の原価と対比することができ、適時適切に見直しが行われている必要がある。工事進捗度とは、工事の進捗度合いを示すものだ。原価に比例して工事が進捗していると考える方法である「原価比例法」を採用することが多いという。
原価比例法では、全体にかかる予定費用(見積総原価)のうち、今期までに発生した実際原価を進捗ととらえる方法であり、その進捗割合に基づいて売り上げを計上することになる。「工事売り上げ=契約金額×実勢発生原価÷原価総額−前期までに計上した売り上げ」で求められる。
たとえば、契約金額100億円のソフトウェア開発で、見積総原価が50億円であった場合で、前期までに10億円の収益(売り上げ)を計上、工事を開始してから当期までの実際発生原価が20億円であるとすると、当期に計上される工事収益は、100億円×20億円÷50億円−10億円=30億円となる。
ソフトウェア開発に工事進行基準を適用する場合、開発会社では解決すべきさまざまな課題が存在することになる。
プロジェクト管理という点で、ソフトウェアは目に見えないものであるだけに、最終形や進捗の度合いが外見上わかりにくいし、品質管理が不十分という課題がある。これらの課題に対しては、要件定義の段階で成果物を“見える”ようにする必要がある。加えて、要件定義契約と開発契約を分離することが重要となってくる。