矢野経済研究所は3月2日、国内の顧客情報管理システム(CRM)ベンダー7社を対象に調査し、CRM市場動向をまとめた「CRM市場動向に関する調査結果 2010」を発表した。
調査によれば、2009年のCRM市場は、前年比4.1%増の173億円と不況で減速を余儀なくされている。だが、統合基幹業務システム(ERP)パッケージなどほかの業務アプリケーションへの投資が削減される中で堅調に伸び、数少ない成長分野となっているという。
CRM市場成長の理由のひとつとして、オンデマンド型CRMの高成長を挙げている。SaaSは初期コストをかけずに小規模でもトライアルとしてスタートできるため、CRM利用の裾野が広がっているという。クラウドコンピューティングやSaaSへの関心の高まりと認知度向上も追い風となり、顧客数を拡大し続けるオンデマンド型CRMベンダーの成長がCRM市場全体を牽引しているという。
CRMを自社運用型(オンプレミス)とオンデマンドに分けると、2009年はオンデマンド型が前年比9.3%増、オンプレミス型が0.2%増で、オンデマンド型の方が大きく伸びているという。オンデマンド型CRMを提供するセールスフォース・ドットコムが、2009年に初めてCRM市場全体でシェアトップを獲得。セールスフォースの業績伸長はクラウドへの注目度の高さを裏付ける結果ともいえ、2010年以降もシェア1位を維持するとみられている。
数年前までのCRMはオンプレミス主流だったが、近年はオンデマンド主導へと変化していることも見えてきている。すでにASPやSaaSの利用が定着し、オンデマンド型がCRM市場に占める比率は順調に増えており、2009年で45.0%だが、2010年には47.7%、2011年に51.1%とオンデマンド型がオンプレミス型を上回ると予測している。
オンプレミス型は緩やかに減少するが、オンデマンド型にすべて代替されるわけではないと矢野経済研究所は分析する。2007年と2008年の2年間はオンプレミス型の売り上げの減少が続いたが、2009年は前年並みの水準にとどまっているとしている。
オンプレミス型のメリットは、画面や機能などのカスタマイズの柔軟性、既存システムや周辺システムとの連携の容易さ、大規模で長期間利用する際にはオンデマンド型よりコストが低い場合があるといったことが挙げられる。そうしたオンプレミス型の存在意義は失われておらず、オンデマンド、オンプレミスはそれぞれの特性を生かして使い分けが進んでいるとしている。
矢野経済研究所は、CRM市場堅調のもうひとつの点として「厳しい経営環境だからこそ、売り上げ拡大につながるアプリケーションとして、顧客との関係維持や営業効率向上といった導入効果への期待からCRMが選択されている」と説明する。企業は限られたIT予算を実効性ある分野に配分したいと考えており、CRM導入の目的は顧客情報管理に加えて、顧客との関係維持や営業効率向上など、企業経営に寄与する効果が期待されているとしている。
IT投資全体ではマイナス基調が続くものの、2010年のCRM市場は前年比5.9%増の184億円に、2012年には207億円に達すると矢野経済研究所は予測。しかし、CRMに対しては既存顧客との関係強化や顧客確保、新規顧客獲得に向けた役割への期待が強まり、それだけに製品機能とベンダーのコンルティング力や提案力の両面が必要とされるとしている。