Austereo:Windowsシステムへの出戻り

David Braue (ZDNet Australia)

2006-06-14 09:25

数年前、Austereo GroupはMicrosoftの企業向けアプリケーションの安定性に対する懸念から、Linuxシステムに乗り換えた。しかし、社内では非Microsoft環境への不満が高まり、AustereoはふたたびWindowsシステムに移行し、Microsoftの忠実な顧客となった。David Braueが同社の新しいIT戦略を報告する。

Austereo Group
業種:エンターテインメント
従業員:1000名
主な業務:販売、マーケティング、広告、マルチメディア事業など。13の商業ラジオ局を通して、豪州本土のすべての州都とニューカッスル市に無線放送を提供。
財務情報:2006年上半期の売上高は1億2810万ドル、利益は3810万ドル

 万事が順調に見える時でも、水面下では小さな不満がくすぶっていることがある。

 Austereo Groupはオーストラリアで13の人気商業ラジオ局(2Day FM、FoxFM、Triple Mなど)を単独または共同で運営する全国的なラジオ放送網だ。この3年間、Austereoの社内では小さな不満がくすぶりつづけていた。携帯メール端末「BlackBerry」を利用できないこと、お粗末なID管理、管理の煩雑さ、復元できないメールの多さなどは、そうした不満の一例だ。不満が積もり積もった結果、同社はついにMicrosoft環境に戻ることを決意した。

 今回はすべてが快調だ。Microsoftのサーバアプリケーションは充実しており、しかも相互に緊密に連携しているので、非常に効率的なITインフラを構築することができた。生産性は大幅に向上し、社内の情報管理も一新された。

 前回はそうではなかった。数年前、同社はMicrosoft製ソフトウェアの安定性とセキュリティに不安を感じ、Red Hat Linuxに乗り換えた。そしてLinux上に堅牢なインフラを構築し、その上でHPの「OpenMail」やNovellのシステム管理ソフトウェア「ZENworks」といったコアアプリケーションを動かした。

 しばらくの間は、Austereoの1000人の従業員のニーズは満たされていた。しかし、Linuxシステムに移行してから3年が過ぎると、Austereoはこの選択を考え直すようになった。会社が成長し、IT戦略が複雑化すると、Linux環境の限界が悲惨な形で露呈してきたからである。

 たとえば、遠隔ユーザーは3つのパスワードを覚えなければ、バーチャルプライベートネットワーク(VPN)にログインできなかった。顧客関係管理(CRM)システムを導入しようとしたときは、膨大な量の作業をこなさなければ、既存の環境にCRMシステムを組み込むことができないことのが明らかになった。

 ネットワークインターフェースカードとハードディスクに問題が生じると、ITシステムマネージャーのRoss Forgione氏はベンダーの言葉と現実との間に大きな差があることを思い知った。

 「削除された可能性のあるメッセージの修復と復元に24時間以上かかった」とForgione氏は振り返る。「ベンダーは既定の手順と手続きにしたがえば、メールは個別に復元できると請合っていた。ところが、実際のプロセスは煩雑で、悪夢以外の何ものでもなかった」

 それだけではない。「それまでのネットワーク環境とアプリケーションを新しいプラットフォームに取り込むためには、かなり特殊なスキルが必要だった」とForgione氏は言う。「この種のスキルを持っている従業員は多くなかった。事業が拡大し、日常業務を支援するサービスを増やす必要が生じてくると、問題の存在は誰の目にも明らかになった」

新しいIT戦略

 問題を解消するために、Forgione氏は3年前に背を向けた企業の扉をふたたび叩いた。Foregione氏はMicrosoftが提供する選択肢の方が「合理的」だったと言う。Forgione氏と同氏のチームはMicrosoftのコンサルタントとともに将来のインフラ計画を検討し、「Windows Server 2003」上で統合アプリケーションを動かせば、同社のニーズを簡単に満たすことができることを知った。

 議論を重ねた結果、AustereoはLinuxシステムと決別し、Microsoftの「SharePoint Server」「Exchange Server」「SQL Server」に、「Office 2003」や「BlackBerry Enterprise Server」などのBlackBerry関連アドオンを組み合わせたアーキテクチャに移行することを決めた。これは難しい決定だったが、既存の環境と新しいコンピューティング環境を比較すると、その差はForgione氏自身も驚くほど歴然としていた。

 「Microsoftにとって、私は非常に手強い商談相手だったと思う」とForgione氏は笑う。「私はオープンソース支持派だからだ。オープンソースの世界には多彩なツールがある。Linuxシステムなら、問題が発生してもたいていは自分で修復し、比較的短時間で元の状態に戻すことができる」

 「問題は、それをできる人間が社内に1人か2人しかいなかったことだ(IT部門のスタッフは全15名)。(オープンソースとは)こうしたツールをもてあそぶことではなく、具体的な成果をあげることだと理解している人材を見つけることも難しかった。Microsoft環境に切り替えたとたん、新しい可能性が開けた」

 移行から1年以上が過ぎても、Forgione氏の興奮は冷めやらない。7台のサーバを使って実現していた機能は、2台のサーバで提供できるようになった。携帯端末BlackBerryも利用できるようになった。今ではマーケティング、プログラミング、販売促進、クリエイティブといった部門の3分の1がBlackBerryユーザーだ。

 また、Active DirectoryがVPNやその他のアプリケーションのユーザーIDを管理するようになった結果、遠隔ユーザーは複数のパスワードを覚えなくてもシステムにログインできるようになった。SharePointベースのポータルも次々と立ち上がり、全国の従業員を結ぶ「すばらしい協力環境」が誕生した。Windowsシステムへの移行と同時に4TB(テラバイト)のストレージエリアネットワーク(SAN)が導入され、コアデータの管理も簡略化された。

Wotif.com

 ZENworksの一部の機能には未練が残るものの、「Microsoft Systems Management Server(SMS)」環境を導入したことで、スタッフのエネルギーをふたたび有効に活用できるようになったとForgione氏は言う。以前はLinux環境の問題にスタッフのエネルギーを奪われることが多かった。たとえば、OpenMailにはなかなか解決できないバグがあり、そのせいで受信者が送信メールを読むことができなかった。

 「プラットフォームを変えてからは、こうした問題は一切起きていない」とForgione氏は言う。「スタッフが本来の仕事に集中できるようになったので、人材を効率よく活用できるようになった。以前はシステムを運用し続けるだけで精一杯だった。技術の観点から言うと、これが重要なポイントだった。ユーザーの満足度も上がった。以前は多くのユーザーが不満を口にしていた」

将来に対する自信

 Windowsシステムへの回帰がもたらした最大の利益は、Linux環境では不可能だった方法で、未来に備えることができるようになったことだろう。

 たとえば、Austereoはマルチメディア開発に力を入れつつあるが、デスクトップのマルチメディアツールをバックエンドのWindowsシステムに容易に統合できるようになったことで、この取り組みをさらに強化できる可能性がある。Active Directoryによって改善されたID管理は、まもなくSAP環境にも拡張される予定だ。また、新しい協調環境では多くのユーザーが遠隔地からもスムーズにアクセスできるようになったと感じている。

 次は各ラジオ局のデジタル音楽管理システムを、一般的な管理システムに統合する作業が待っている。Forgione氏が「新戦略の要」と呼ぶこの統合は、社内の多様な業務をこれまで以上に密接に連携させることで、新しい環境がもたらす利益をさらに拡大するものとなる予定だ。

 Linux支持を公言する人物が、Microsoftのソフトウェアにこのような高評価を与えるのは皮肉なことだが、会社は結局、自社のニーズに最も適したソリューションを選ぶほかなかったとForgione氏は言う。Forgione氏は新しい環境が、「IT部門だけでなく、会社のビジネスそのものにとって大きな原動力となっている」と指摘する。

 「新しいシステムが一度は閉じられた扉を開いた。従業員はIT担当者の世話になることなく、PCを利用できるようになった。落ち着いてPCを利用できるようになり、以前のように、ちょっとした作業のためにIT部門に連絡をしなくてもよくなった。Windowsの安定性には不安があったが、今は安定性はもちろん、問題が起きた場合の復旧可能性についても、新しいシステムの能力に大きな自信と満足感を持っている」

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