「SAN」とは、「Storage Area Network」の略で、文字通りストレージの世界で使われる言葉です。個人の自宅PC環境ではほとんど使われていないため、なじみがなくても不思議ではありません。SANが使われているのは、会社や学校、官公庁、インサーネットサービスプロバイダ(ISP)など、複数の人が同時にコンピュータを使うような規模のIT環境です。
SANという用語の定義を調べてみましょう。ストレージ業界の標準化と技術啓発活動を行うSNIA(Storage Networking Industry Association)によると、SANの定義は以下の通りです。
- storage area networkの頭字語(SNIAの文書では通常この用法で用いる)。
- 1つもしくは複数のサーバを接続するServer Area Networkの頭字語。
- システムエレメントの相互接続された一群を表すSystem Area Networkの頭字語。
(出典:SNIA用語集 第6版)
通常SNIAの文書では「SAN=Storage Area Network」を意味しますが、様々な分野の技術革新によって、歴史的にSANには複数の定義が存在します。ただし、現在ではSANと言えば、「サーバとストレージ装置(ディスク装置、テープ装置など)を接続するためのストレージエリアネットワークのことを指す」ということを、まずは覚えておいてください。
SANが誕生した背景
SANは、実質的にはUNIX、Linux、WindowsなどのOSを使用しているオープン系サーバと、ストレージ装置を接続するために使われるものです。SANが誕生する以前の1980〜1990年代、オープン系サーバといえば、主にUNIXが使われていました。そのサーバとストレージ装置の接続方法として当初使用されていたのはSCSI(「スカジー」と読む)で、SCSI接続には物理的な実際のケーブルが使われていました。
当時、オープン系サーバは演算処理とグラフィック処理性能の高さが売り物で、技術分野のコンピュータシミュレーションや、CAD、CAMといった設計支援のために使われていました。その頃はデータ入出力処理性能が高くなくても、接続するストレージが小規模だったため、接続方法はSCSIで十分でした。
1990年代中盤から、オープン系サーバが基幹業務やウェブサーバなどにも使われるようになりました。つまり、高い信頼性や大量のデータ処理能力が必要で、システム統合による投資と運用管理の最適化が求められるようになったのです。こうなると、SCSIの物理的制約の限界が見えてきました。
SCSIの物理的制約とは、接続可能な装置の数がサーバを含めて最大8台であることと、接続形態が全ての装置をケーブルで順番につないでいく方式の「ディジーチェーン接続」で、最大ケーブル長が25mであることでした。これでは、大規模なシステム統合には無理があります。
そこで、大規模システムにも対応できるファイバチャネル(FC)を使って、サーバとストレージのネットワーク化を実現したのがSANです。
FCは、1994年にANSI(米国規格協会)で標準化されました。FCは通常、光ファイバケーブルを使用しており、接続可能な距離が150m〜10kmにもなります。
FCは接続形態(トポロジーといいます)も多様です。サーバとストレージを1対1で接続する「ポイントツーポイント」や、リング型に接続する「アービトレーションループ」、それぞれの装置を多対多で接続する「ファブリック」の中から、目的と規模によって選択することができます。つまりFCは、接続距離の面からも、接続できる機器の数の面からも、大規模なシステムを統合するのに十分な仕様を持っているのです。
FC-SANとIP-SAN
このように、FCを活用してサーバとストレージ間を接続することが多かったSANですが、FCを活用するSANは狭義のSANというべきでしょう。厳密に言うとこれは、「ファイバチャネルとFCスイッチを用いたSAN」で、「FC-SAN」と呼ぶべきものです。
一方、FC-SANほど高速ではないものの、WAN(Wide Area Network、広域通信網)を経由したリモートバックアップや災害対策に使われるSANもありました。それは、サーバ接続で通常使われているイーサネット回線を利用するSANで、IPネットワークを用いることから「IP-SAN」と呼ばれます。
SANが登場した当初は、「SANといえばFC-SAN」と考えられていたケースが多かったのですが、今ではイーサネットの速度も高速となってきたため、IP-SANを使った製品も登場するようになってきました。