金融商品なんて難しく考えても…… - (page 2)

飯田哲夫(電通国際情報サービス)

2008-12-17 14:05

時代に逆行したマーケティング

 過去10年のマーケティングは、その手法の高度化とコンシューマーのセグメント化に伴い、マス・マーケティングからターゲット・マーケティング、そしてワン・ツー・ワン・マーケティングへと進化してきた。最近では、更にそのタイミングまで見定めるイベント・ベース・マーケティングが当然のように議論される。

 しかし、ING Directは、全くその逆を行くところが面白い。ING Directの成功の秘話をCEOが語った「THE ORANGE CODE」によると、まず、そのマーケティングにおいてターゲットを一切設定しないのである。つまり、「預金をしたい人」すべてが顧客なのであって、それはある特定のセグメントには限定されないというのだ。

 また、ING Directは、決して顧客を差別しない。最近の風潮は、富裕層、準富裕層、それ以外と区分けして、それぞれにサービスを変えてみたり、手数料を変えてみたりと、顧客を差別的に扱うことで収益を向上させようとするものだ。しかし、ING Directは、預金量や取引量の多寡に関わらず、全顧客に全く均質のサービスしか提供しない。これは、そのローコスト・オペレーションに依拠したビジネスモデルによるのだが、預金残高が多いことを理由に特別なサービスを求めて来た顧客の口座を閉鎖してしまったというから、その徹底ぶりは推して知るべしだ。

金融サービスの提供価値

 同社CEOであるArkadi Kuhlmann氏が、ING Directを米国で立ち上げるにあたって悩んだのは、既に約9,600も銀行がある米国において、誰がそこに1行追加されたことに興味を持つだろうかという点であったという。まぁ確かにそうだ。しかもオランダ資本である。

 そこで、当初は貯蓄口座という単純な金融商品を、ローコスト・オペレーションで高い金利を付けて売り出したのである。結果として、2年で黒字化を達成し、現在では預金量で全米21位のポジションにある。8年のうちに「約」9,579行を抜き去ったわけである。

 金融商品自体は無味無臭、そして乾燥しているかもしれないが、ING Directを見る限りにおいて、金融サービスの提供価値は、その取扱商品がコモディティであるか否かには拠らない。ただ、戦略とは選択であるということをING Directは強く示唆しているように思われる。乾物屋の商売は成り立つのである。

 さて、買ってきた黒豆は、今のところ無味無臭で、かつ乾燥している。私はこれをうまく煮あげることができるだろうか?

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