問われる“現地主義”の意義--IFRSは真のグローバル経営へのチャンス - (page 2)

野村直秀(アクセンチュア IFRSチーム/経営コンサルティング本部 エグゼクティブ・パートナー 公認会計士) 鈴木大仁(アクセンチュア IFRSチーム/テクノロジーコンサルティング本部パートナー)

2010-01-14 08:00

 また、グローバル企業では業務プロセス全体の標準化という作業もある。従来のように日本では日本のシステム、米では米のシステムという形で拠点別のシステムを運用していた場合も、IFRSによって会計基準が統一されることで、現地法人も含めた標準化を進めることができる。

 つまりグローバル企業では、IFRSに対応した統一システムを構築し、それを各拠点で活用する方式が採用されていく。IFRS導入が、「グローバルシングルインスタンス」構築を大きく加速させるとも言えるだろう。

 こうした仕組みの構築には、それなりの時間とコストが必要であることはいうまでもない。しかし、アプリケーションの実行環境を統合でき、従来は個別に行っていた処理をひとつのコンピュータ環境に統合することも可能になるなど、これを実現することで享受できるメリットも大きい。

 これら以外にも、IFRS導入を契機として、企業それぞれの事情や狙いでさまざまな対応が考えられ、それに伴う効果も多様なものが期待できる。

システム化の範囲と経営モデルのあり方

 IFRS対応のシステム化の範囲を“松竹梅”の各レベルで見てみよう。対応必須(Must)の連結はもちろんのこと、およびグループ企業全体でIFRSに対応した共通システムを実現するのが最上位の“松”コースである。該当するのは、いわゆる多国籍企業やグローバル事業展開を重視している企業である。「グローバル経営実現型」という分類で、グループおよびグローバル横断での業務やシステムの共通化、集約化を目指すことになる。

 続く“竹”コースは、Mustの連結と本社など主要拠点でのIFRS対応した共通システムの導入だ。この「決算早期化実現型」コースを目指すのは、事業の拠点が本社や一部の拠点に集中している企業である。本社と主要拠点の業務効率化や決算短縮を目指す。

 最後の“梅”コースは、「IFRS財務報告実現型」または「早期適用を狙った過渡期対応型」と呼べるだろう。主に、グループ企業の独自性を尊重した経営を推進している企業が対象となる。上位の“松”や“竹”のコースに対応する以前の、IFRS対応を早期に実現する暫定モデルといえる。

 現在、欧州企業の4分の3はこの“梅”コースに留まっている。“松”や“竹”コースは4分の1、つまり25%にすぎないが、投資対効果(ROI)という観点から見れば、最上位の“松”コースが最も高い投資効果が得られることになるだろう。

 もちろん投資コストは増大するものの、IFRS対応後にはITシステムの運用コストを大幅に下げることが期待できる。アプリケーション実行環境の統合で、グローバル規模でサーバ統合が実現するためだ。

 また、シェアードサービスを導入することで、業務コストも大幅に下げることが可能になる。一方で決算スピードも大幅に向上する。対する“梅”コースは、少額コストで対応可能ではあるものの、ITコストも業務コストも従来通り、あるいは増加し、決算スピードは大幅に低下する可能性がある。

 最後に、システム化の範囲決定に際して最も重要なのは、自社が目指す経営モデルを明確にし、IFRSトランスフォーメーション後の着地点を定めるということである。

 日本にも、グローバル企業は数多い。しかし“現地主義”という言葉があるように、日本のグローバル企業は欧米企業に比べ、事業横断でのガバナンスが希薄という面は否めない。この現地主義という考え方を再度見直し、IFRSによって業務プロセスやシステムなど共通プラットフォームとなる仕組みを統一、グループ戦略や目標を相互に共有した上で、本社が現地・現場の自立した経営を尊重するという姿勢が求められる。

図2 システム化イメージ(出典:アクセンチュア)
※クリックすると拡大画像が見られます

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