「炎上」を恐れず顧客と向き合え--ソーシャルメディアは企業文化や事業さえも変革する - (page 2)

富永恭子(ロビンソン)

2010-02-19 23:25

事例:「炎上」をTwitterで消火し自らを変えたComcast

 俗に「炎上」と呼ばれる現象がある。サイト運営者の意図する範囲を大幅に超え、そのサイトに非難や批判が殺到することだ。2月はじめに、Twitter上でbotを利用したPR活動を行ったUCC上島珈琲が、ユーザーからの批判を受けて結果的に説明会見を行うに至った例もあるが、企業がソーシャルメディアの活用にあたって最も心配するのは「炎上」に対する懸念だという。

 「炎上は偶然の産物ではなく、必然の結果だ」と話すのは、国内での企業向けSNS構築分野で多くの実績を持つループス・コミュニケーションズ(ループス)代表取締役の斉藤徹氏だ。

 斉藤氏は「だが、そのためにソーシャルメディア活用を恐れることも実はナンセンス。なぜなら、企業が参加するしないにかかわらず顧客が交流する場はいくらでもあり、そちらのほうがはるかにアンコントローラブルだからだ。それよりも、企業と顧客の関係が新しい時代に入ったことを自覚し、企業外部と誠実な姿勢で真摯に向きあう社内文化を醸成することが肝要」だとしている。

 また「炎上」を体験し、その逆境に際して顧客と正面から対話することで信頼を回復するとともに、顧客の英知を借りて経営改革を実現した例は多いと斉藤氏は言う。そうしたTwitterによる企業改革の実例として、米国ケーブルテレビ最大手「Comcast」の事例を挙げる。

 Comcastは、以前からユーザーのあいだでサポートが悪いと評判の会社だったという。そのずさんで、融通の聞かない対応に対して、怒りの記事を掲載するブロガーも多かったそうだ。昔であれば、企業側が多くの情報を持っていたため、顧客はそのような態度にも甘んじていた。しかし、現在は、顧客の方がより多くの情報を持つ時代である。Comcastに対する顧客の不満は、溜まりに溜まっていたのかもしれない。

 そんなある日、出張サポート社員が居眠りをしている姿がYouTubeで流された。これを引き金に顧客の不満が爆発。この情報は瞬く間にネットを駆け巡り、クレームと批判の声が殺到したという。文字通り、インターネット上でComcastは炎上したのである。

 その様子を見て動いたのが、当時、カスタマーサポート部門の窓口を担当していたFrank Eliason氏だ。彼は、顧客をTwitterでフォローすることを会社に提案した。かくして、10名の社員が集められ、Twitterサポートプロジェクトが始動。「Comcast Cares」が開設されたのだという。

 彼らの手法は、Comcastに関するトラブルを探すことだった。TwitterサーチでComcastのトラブルや批判、クレームに関する発言を総掛かりで検索し、発見すると発言した本人に直接Twitterでコンタクトしていく。

 斉藤氏は「Twitterの良さは、140文字という単文とフランクでフレンドリーな文化。プロジェクトのメンバーたちは、その土俵で会話することによって、顧客と人と人との会話をすることができ、トラブルを円滑に解決することができるようになった。中には、電話対応で頭にきた著名ブロガーがTwitterで愚痴を言っているところをComcast Caresに救われて絶賛し、ブログスフィアに伝播したケースもあった」という(ちなみに、この時のComcast Caresの対応についてまとめたブログエントリはこちら)。

 Comcastのケースは、Eliason氏の迅速で大胆な行動と、Twitterというツールによって成し遂げられたものだといえるだろう。この一件からソーシャルメディアを活用したコムキャストの顧客サービス改革が始まった。斉藤氏によれば、Eliason氏とその仲間がTwitterを使い、たった10人で始めたその取り組みは、会社全体に変化をもたらしたという。昨年10月のWeb 2.0サミットで、Comcast CEOのBrian L. Roberts氏が「Twitterが企業文化を変えた」と述べたのは有名な話である。

事業改革とともに取り入れたTwitter

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