多様化する地図データ作成
地図作製の大きな流れの1つが高精度化である。
自動運転や自動耕作などの自動化技術や、バリアフリーナビゲーションなどの歩行者支援では、道に沿って正確に走ることやセンチメートル単位での測位や障害物検知などが求められる。その際、段差や勾配などの情報も重要だ。また屋内ナビゲーションでは、階高や地下空間など高さ情報を加えた3次元データが必要となる。
測位技術の向上により、地図の精度も向上している。特に道路情報については、MMS(Mobile Mapping System)という路面の穴まで検出可能な3次元計測システムにより、絶対精度10センチ以内という高精度な3次元モデルが生成可能になっている。
MMSは、車にGPSや慣性計測装置(Inertial Measurement Unit:IMU)、走行距離計(オドメータ)、レーザースキャナ、カメラなどを搭載し、GPSやIMU、オドメータで正確な位置を測位しながら、レーザースキャナとカメラで取得した道路や周辺の建築物などのレーザ点群と撮影画像をもとに3次元モデルを構築する仕組みである。取得してすぐにデータの処理が可能なため、データ生成時間も短縮される。
また、一般財団法人リモートセンシング技術センターとNTTデータは、この2月から、約300万枚の衛星画像を使って作製した5メートル解像度の3Dの数値標高モデルの提供を開始した。これは、陸域観測技術衛星「だいち」(Advanced Land Observing Satellite:ALOS)などが撮影した立体視観測結果を用いて実施しているもので、2016年3月までに全世界の3D地図が完成するという。
そして、もう1つの流れがオープン化だ。ここで言う“オープン”には、作る自由、流通の自由、時間の自由の3つの意味がある。
作る自由の代表例は、“道路地図などの地理情報データを誰でも利用できるよう、フリーの地理情報データを作成することを目的としたプロジェクト”である「Open Street Map(OSM)」だろう。世界中のマッパーによって作られているWikipedia的地図である。
ボランティアで作製されているため、道路や建物データがほとんど入力されていない地域がある一方、公園のベンチやトイレの位置など他のウェブマップサービスに勝るとも劣らない情報量の豊富さを誇る地域もある。2次利用や改変が可能なODbL(Open Database License)で公開されており、無償で活用できる点も魅力だ。Google Maps APIが課金制になってからOSMを使用するアプリが増え、Foursquareが採用したことも話題になった。
OSMはいわゆる測量に基づいた地図ではないが、地図が好きなボランティアたちが、OSMに提供された航空写真やGPSロガー、紙地図などを駆使して、こだわりをもって作製していることから、精度は想像以上に高い。高精度な地図まではいらないが背景地図を使うアプリや、まちづくり活動に使うための地図づくりがしたいなど、用途によっては十分選択肢の1つとなるだろう。
流通の自由でも、OSMが活躍している。先述のとおり、OSMは共有、2次利用、改変が可能だ。米国では、地図のデザインにこだわりたい、この情報は入っていないと困るなどのニーズに応える形で、「Mapbox」や「Cloudmade」など、利用者のニーズに応じてデザインした地図を提供したり、さまざまな地理空間情報をマッシュアップして提供したりするサービスが立ち上がっている。
データビジネスのマップ版であり、OSMデータを使用することで実現しているビジネスとも言える。
現在、政府や自治体、企業などが、さまざまな分野で地理空間情報をはじめとするデータ流通のための基盤づくりを検討している。流通される仕組みができあがれば、上記のようなサービスも日本で生まれてくるかもしれない。