IoT対応の遅れが日本にもたらす恐怖--NTT コミュニケーションズ指摘 - (page 4)

鈴木恭子 怒賀新也 (編集部)

2016-03-15 06:45

インシデントの報告義務を法制化すべき

 ただし、ガイドラインを策定するだけでは、「守らなくてもいい」と考える企業も出てくる。ですから、インシデント発生の報告義務は法制化すべきです。インシデント情報を共有することで、それに対する対策をガイドラインの中に追加できる。これは効果があると思います。

 残念ながら多くの日本企業は、インシデントを“不祥事”と位置づけ、隠したがります。しかし、現在のサイバー攻撃は、一企業だけで対処できる問題ではありません。インシデントが発生したら情報を共有し、国家レベルで対策を講じることが大切です。サイバーセキュリティ攻撃を受けてインシデントが発生することは、恥ではありません。

―― 最後に、IoTの社会的意義と今後の可能性を教えてください。IoTは人間を幸せにしますか?

 私はIoTの社会的意義は、産業競争力強化のほかにもいくつかあると思います。1つ目は環境問題への取り組みです。例えば、地球温暖化による気候変動は、各地で深刻な被害を引き起こしています。現在の状況を把握するため、例えば、世界のどの地域でどのくらいCO2が輩出されているのかといったデータの収集/解析にIoTは役立つでしょう。

 そのためには、現在観測ができていない地域にもセンサを配する必要があります。こうした活動は一企業でできることではありませんが、解決の糸口を掴む一助にはなるはずです。

 2つ目は経済格差の解消です。「お金がないからネットワークサービスが利用できない」となってしまえば、情報格差や知識格差を引き起こしてしまう。すべての人がネットワークという社会インフラの恩恵を享受できるよう、社会的に保障する必要があります。

 日本国憲法第3章(国民の権利及び義務)に、基本的人権の保障が書かれています。今後は「通信が利用できる権利」も基本的人権の1つとしてとらえられるようになるかもしれません。もちろん、これは日本だけの問題ではありません。「ネットワーク」というインフラを世界中の人びとが利用できるよう、グローバルに貢献していくこともわれわれの務めだと考えています。

社会的な意義の側面からもIoTに取り組む境野氏。環境問題の解決などについて、学生時代から考えをめぐらせてきたという。
社会的な意義の側面からもIoTに取り組む境野氏。環境問題の解決などについて、学生時代から考えをめぐらせてきたという。

 最後は安全対策です。IoTですべてを接続した後に、それを悪用したテロや事件が発生する事態は避けなくてはなりません。普及と同時に安全対策を研究し、対応策を準備する必要があります。NTTコミュニケーションズでは、NTTの研究所や大学などと協力しながらこうした安全対策のための実証実験も進めようとしていいます。

 IoTの間口は広く、社会インフラから公共サービスまで何にでも活用できます。そのようなIoTを活用したサービスの開発に取り組み始めたきっかけは、2011年に発生した東日本大震災でした。NTTコミュニケーションズとして何ができるかを考え、私はエネルギーマネジメントサービスを実施すべきと主張したのです。その根底には「すべての人にIoTやインターネットを介して利用できるサービスの恩恵を受けられる仕組みを構築したい」という思いがありました。

 IoTは通信サービスの1つであり、公共サービスだと思っています。ですから、IoTで得られるメリットや利益は、すべての人が享受できなくてはなりません。特定企業や業界が発展するためものではないのです。前出の日本国憲法第3章第25条に「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とあります。IoTはその一助となる技術であると確信しています。

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