より賢く活用するためのOSS最新動向

スパコン「TOP500」の498でLinuxが稼働する理由--学術向けソフトもOSS化 - (page 3)

吉田行男

2017-08-04 07:00

 さらに、オープンCAE学会は、計算科学あるいは計算機援用工学(Computer Aided Engineering:CAE)分野で知識を共有し、普及させることを目的に設立された団体です。

 近年、コンピュータの能力向上により、解析対象が複雑化したことから、自作ソフトウェアによる解析が困難になってきていました。

 そのような背景のもと、海外で開発された優れたOSSを活用し、CAEの裾野を広げることを目指しています。

 また、上記以外にも、2013年3月に「FrontISTR」がOSSとして公開されました。

 「FrontISTR」は、Windows やLinux のPC クラスタはもとより、「京」などの超並列スパコンにも対応可能な、有限要素法によるOSSの大規模構造解析プログラムです。


 文部科学省の次世代IT基盤構築のための研究開発である、「イノベーション基盤シミュレーションソフトウェアの研究開発」プロジェクトで開発されました。

 研究開発プロジェクト終了後は、FrontISTR研究会を中心に、引き続き「FrontISTR」システムの利用促進、産業応用、ソフトウェア資産や解析データの維持管理、機能改良、などが進められています。

 また、2015年5月に国立研究開発法人理化学研究所(理研)の計算科学研究機構粒子系生物物理研究チームは、生体分子の運動を1分子レベルから細胞レベルまでの幅広い空間スケールで解析可能なシミュレーションソフトウェア「GENESIS」を、OSSとして無償で公開しました。

 このGENESISは、超並列分子動力学計算ソフトウェアで、生体分子の運動を1分子レベルから細胞レベルまで、幅広い空間スケールで解析できます。

 スパコン「京」のアーキテクチャを考慮した、独自の計算アルゴリズムを導入、並列計算を高効率化し、細胞環境を想定した1億個の原子で構成される系に対しても、高速な分子動力学シミュレーションができます。

 GENESISが分子動力学シミュレーションを行うためのソフトウェアとして、開発グループのみならず、大学や研究機関、企業などで幅広く利用され、生命科学の基礎研究や創薬応用の現場で役立つよう、公開されました。

 このように、スパコンの世界でもOSSは広く活用されています。当初のLinuxを採用するフェーズから徐々に活用範囲が増えてきており、今やOSSなくしては、機能が実現できないレベルまで来ています。

 クローズドな環境で開発することはもはや不可能で、「オープンな環境にこそ未来がある」ということを、実感させられる状況であることが分かると思います。

 ※本文中記載の会社名、商品名、ロゴは各社の商標、または登録商標です。

吉田行男
日立ソリューションズ 技術革新本部 研究開発部 主管技師。 2000年頃より、Linuxビジネスの企画を始め、その後、オープンソース全体の盛り上がりにより、 Linuxだけではなく、オープンソース全般の活用を目指したビジネスを推進している。現在の関心領域は、OpenStackを始めとするクラウド基盤、ビッグデータの処理基盤であるHadoop周辺及びエンタープライズでのオープンソースの活用方法など。

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