コンサルティング現場のカラクリ

IT部門の苦悩(13):日本の経営者にはIT改革で成功する条件が整っていない

宮本認(ビズオース )

2018-08-25 06:45

(本記事はBizauthが提供する「BA BLOG」からの転載です)

 今回も経営とITの課題を取り上げる。もっとも、ここで言及するのは時間に関する問題である。つまり、経営者が在職できる期間と、ITが効果を発揮するまでの時間のミスマッチである。

 日本企業の経営者にとって、IT活用の優先順位はかなり低いと筆者は考えている。日本における典型的な経営者の任期は、ITを使った改革で成果を上げるにはあまりにも短い。通常はITが効果を十分に発揮するまで数年かかるものだ。大企業の基幹系システム刷新ともなると、プロジェクトが完了する前に経営者が退任していることもあり得る。

 日本企業での経営者の任期は通常2~3年。勤め上げてもせいぜい2期。長くて6年ではないだろうか。トップに就いて、すぐにIT改革を始めたとしても、最初の任期は効果が出ず、投資だけで終わってしまうだろう。経営者が最初の数年で実現したいのは、業績のV字回復などではないだろうか。そうしたときに、即座にリターンが得られないITへの投資というものはなかなか考えにくいはずだ。

 一方、欧米企業の経営者はどうだろうか。全てがそうは言えないし、実証的な研究をしたわけではないが、総じて在任期間が長いようだ。米国では、インターネット企業が勃興し、その創業者やオーナーが長期にわたって経営のかじ取りを担う。また、筆者が長年勤めていた外資系コンサルティングファームの最高経営責任者(CEO)も十数年にわたって在任している。世界のエクセレントカンパニーとして尊敬を集めるGEでは、現在のCEOが10年以上も在職中だ。

 実際、筆者が所属していたコンサルティングファームでは、CEOの就任から数年掛かりで一通りの経営施策を打ち出した後、最高情報責任者(CIO)を採用してIT活用を劇的に進展させた。筆者が中途入社するまでは、全体として不安定な成長軌道だった。そのため、コストの削減と成長の安定化に主眼を置いて経営改革を実施していた。一定の収益力と成長力を確保できたところで、ITへの投資を一気に推進したのだ。経営的に見て理に適っている。

 経営にとってもITの重要性は高い。ITを使いこなせれば、大きな組織であっても自由自在に経営ができると考える人も多いだろう。リアルタイムに全世界の業績やオペレーションの動向を把握できるし、世界中のセールスや顧客サービスの対応品質を上げることができるのだ。こんな便利な道具はない。しかし、そのためには投資も掛かる。いくら経営者でも、そうやすやすとは投資に踏み切れないだろう。

 日本企業では、こんな笑うに笑えない事態も起こっている。あるプロ経営者に請われて入社した外国人の最高財務責任者(CFO)は、自分のパフォーマンスを発揮するために、企業の財務状況をなるべくリアルタイムかつ詳細に把握したいと考えた。日本語が不自由だった同氏は、部下の報告がよく分からない。欧米企業ならば、グローバル共通の統合基幹業務システム(ERP)を稼働し、各国の業績や財務状況を細かく把握できる。そうした道具立てがあるからこそ、的確な財務戦略を立て、経営方針を提案することもできる。

 しかしながら、日本企業の財務管理基盤はそこまで整っていない。そのため、CFOはグループ全体へのERP導入を要望。何十億円という予算を掛けた導入プロジェクトが進む。だが、不運にも、このCFOを招き入れたプロ経営者は望んだ通りの業績を上げることができず、2年で退任してしまう。それに合わせてCFOも退任となる。その会社には、プロジェクトリーダーを失ったERPの導入プロジェクトだけが残る。当初はCEOとCFOの強力な後押しで進んでいたが、リーダーがいないプロジェクトは迷走を始める。もう悲劇としか言いようがない。

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