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IT部門の苦悩(9)--日本の供給過剰の産業構造はITを地獄に落とす

宮本認(ビズオース )

2018-06-09 07:00

(本記事はBizauthが提供する「BA BLOG」からの転載です)

日本の供給過剰の産業構造はITを地獄に落とす

 次は、競争環境の問題だ。

 日本は、成熟産業であっても企業の数が多い。自動車会社の数。家電企業の数。銀行の数。化学企業の数。鉄鋼会社の数。製紙会社の数。広域TV会社の数。運送業者の数。倉庫業者の数。

 企業の数が多いということは、競争は当然激しくなる。競争は、多くの場合、QCD(Quality、Cost、Delivery)で行われ、企業の数に応じて壮絶になっていく。そして、ここにさらなる要素が加わる。それが、個別化だ。

 顧客独自の仕様、納期、請求書の記述方法、請求書発行日、決済方法。様々な個別対応が、顧客独自に設定されていく。営業は、仕事を取る、顧客を維持するために、必死で顧客に食らいつく。営業が必死に食らいついた結果は、社内で説得される。生産部門や、物流部門など、さまざまな部門が個別対応する。それは、すべてシステム部門がアプリケーションに個別対応を施していく。

 この個別対応は、日本の独特の産業構造である、「すりあわせ」と表裏一体の面もあるのであろう。顧客の開発担当者とどうすべきかを個別にすり合わせ、企業をまたいだ効率的なシステムを作り上げ、日本の高品質で高生産性の商品やサービスを作り上げていく。

 システムの特徴は、効率化であるとともに、一旦システム化を正しく行うと、間違うことがないことにもある。だから、顧客の特別な仕様については、なるべくシステム化しようということになる。こうした個別化の対応も、一つ二つであれば、問題はない。しかし、自社の製品ごと、バージョンごと、顧客の事業所ごと。乗数的に増えていく。ある化学企業で、こうした対応を伺ったことがあるのであるが、自動車会社一社に対して、万単位の個別仕様があるそうだ。そう、それがすべてシステム化されているのである。

 個別化は、情報システムにとってルビコン川を渡ることに等しい。やるとシステム的に地獄を見ることになるのであるが、わたってしまうと後戻りはできない。システムは、安定性、柔軟性、経済性が高いことが良いと言われているが、個別化は、安定運用への高いリスクを生むこととになり、柔軟性からは程遠いアプリケーション構成をもたらし、結果として非効率を招く主要因である。よって、極力標準的であるにこしたことはない。システムのロジックがシンプルになるからだ。シンプルな方が、プログラムのメンテナビリティは高くなるし、入替を行うのも簡単だ。これが、一旦、個別化を受けてしまうと、もう受けないというわけにはいかなくなる。それだけではなく、個別化に個別化を重ねることとなる。しかし、そうした対応をしなければ、顧客の維持が出来なくなるのが現実だ。

 個別化は、時間を経ると、さらなる地獄を生む。それはもはや、誰もその仕様が分からなくなるということだ。個別化対応を行い、数年が経つと何が起こるか。人事異動だ。顧客の担当も異動する。自社の担当も異動する。システム担当だって変わってしまうかもしれない。顧客の担当が新しくなると、新しい個別化を要望する。自社の営業担当が新任になると、何か新たな商売を得るために、新たな個別化を提案する。システム担当は、本来ならばシンプルなシステムにしたいのだけど、時間とコストの問題で新たな個別化をプラスする。これが、数世代にわたるとどうなっているか、想像してみてほしい。良くシステムをスパゲッティに例えることがあるが、スパゲッティになってしまうメカニズムは、多くの場合、この個別化だ。

 この個別化は、短期的には最善の意思決定の積み重ねだ。仕事を取る、顧客を維持する。そのために、低コストで対応をする。社員の育成のために、人事異動をする。新たに仕事を取る、顧客に付加価値を加える。そのために、低コストで対応をする……。これが、長い目で行くと、複雑怪奇なシステムを作る。そして、そのシステムを作り替えることは不可能となる。

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