コンサルティング現場のカラクリ

IT部門の苦悩(10)--日本企業はベンダーの支配力が高くIT部門のリストラさえできない

宮本認(ビズオース )

2018-06-16 07:00

(本記事はBizauthが提供する「BA BLOG」からの転載です)

 ここまでは、ITを利用するサイドであるユーザー企業自身の、日本企業が持つIT投資や活用の限界を見てきた。ここでは、ITの供給サイドであるベンダーとの結びつきも含めて考察していきたい。それは、日本のIT産業の構造の限界とも言えるだろう。

 これまで見てきた日本のIT部門の問題は、要約すると、そもそも投資対効果が発揮されず、発揮しようにもそれをリードするリーダーにも恵まれることはなく、高コスト体質を宿命づけられており、個別対応で更にシステムは複雑化し状況は悪化する、ということにある。

 これを、企業に例えるならば、収益は上がることはなく、改革するリーダーにも恵まれず、高コスト体質で、それを改善できる環境下にはなく、悪化し続けるということだ。もはや、倒産している、あるいは倒産間近である。

 通常の企業経営では、倒産が近づいてくると、何が起こるか。そう。リストラだ。顧客や取引先、人員を減らして、強引に利益が出る体質にもっていく経営手法である。リストラの対象になる人には、悲喜こもごもある。そういう意味でリストラは、議論がある経営手法ではあるが、企業経営的にみるとやむを得ない面もあり、これによって息を吹き返し、業績回復を果たすケースが増えてきているのも事実だ。

 状況が悪くなった場合には、最後の手段として、一旦、リセットしてしまい、一から出直すという選択肢が企業経営では可能である。

 しかしながら、日本のIT部門は、このリストラさえも難しい。まずは、通常の企業経営のように、業容、すなわち顧客を絞ることができるかと言えば、できない。IT部門が担当しているシステムを投げ出すことは不可能だ。ユーザーから猛反発を食らってしまうだろう。

 では、要員を絞ることはできるか。それもできない。能力の問題で、要員の入替を行いたいと考えるだろうが、そもそも日本のIT部門は要員が少ない。筆者が所属していたコンサルティングファームにて、分析したことがあるのだが、欧米の企業においてはIT要員一人当たりが管理する支出額は約1億円であるのに対し、日本のIT企業においてはそんな低い金額であることはない。少ない場合でも、数億円、ひどい場合には10億円以上である。

 要は、苦悩する部門でも、忙殺されている状態なのだ。そうした「要員不足」な状態から、さらに要員を絞ることは無謀だ。

 そして、もう一つ。取引先を変更することができるかと言えば、これも難しい。先ほど、一人当たり支出が日本では大きいといったが、それは取引先への依存度が高いということも意味する。さらには、依存度が高いために、日本のIT産業のプレイヤーは硬直的である。依存度が高すぎて、交代することが事実上できないのだ。結果として、IT部門が革新する機会がなくなってしまう。

 先日、付き合いのある某企業の情報システム部長から、興味深い話を聞いた。それは、「3:7」という比率の話である。その部長によれば、日本企業のIT部門と、欧米企業のIT部門の要員構造は、この「3:7」で表すことができるそうだ。

・欧米企業では、社内の要員と、ベンダー要員の比率は、7:3

・日本企業では、社内の要員と、ベンダー要員の比率は、3:7

 要は、日本のIT部門は、そもそもリストラが可能なほど人に余剰感はない。そして、外部へ依存している割合が高い。別な言い方をすれば、ベンダーの支配力・浸透力は、欧米に比べてが非常に強いということだ。

 このベンダーへの依存度の高さとベンダーの支配力の強さというのは、日本のIT部門の革新を妨げている。繰り返すが、リストラさえすることができないのだ。ベンダー・ロックインという言葉がある。ベンダーに完全に囲い込まれて、にっちもさっちも行かない状態のことを指す。3:7で多数を握られている日本企業のIT部門は、まさに、ベンダー・ロックインの典型である。

 タラレバは禁物なのだが、もし、海外企業のように7:3の関係だとしたらどうなるか。3であるベンダーは、普通に考えて替えやすい。依存している部分も少ないし、交代できるベンダーの条件も下がる。

 チャレンジしてくるベンダーも多い。さらに、7の部分の労働流動性のタラレバを加えるとどうか。海外の転職支援サイトを見てみたり、SNSを見てみると、○○のOracleのDeveloperを募集といった求人が多数出ている。要は、どんどん7の部分も追加、変更がされている。日本企業は、3の部分さえ、入れ替えることなど非現実的である。

 加えて、過度なベンダー依存である日本のIT部門は、ユーザー企業とベンダーの典型的な利益相反関係に陥りやすい。ユーザー企業がコスト削減をしたいと思う。これは、ベンダーにとって大問題である。優良顧客からの売上が落ちるのだ。だから抵抗する。時間がかかる。長い交渉の末、なんとかコスト削減をベンダーが飲む。

 しかし、ベンダーとて利益を確保すべきだ。すなわち、質を落とす。ユーザー企業では、質の問題、すなわち障害の多発や生産性の低下に悩むようになる。

 もっと深刻な問題もある。支配力のあるベンダーは、根本的に変化を好まない。ベンダーの経営から見て、リスクをとってイノベーションンをするよりも、労力をかけることなく、安定的に継続的なビジネスをしたいと思う。何か問題があれば、謝ればいい。謝れば金になるのだ。こういうベンダーサイドの営業責任者はいる。

 しかも、そういう人材は高収益をもたらすので、出世し、偉くなっている。筆者も前々職で、SIを行っていたが、リードしていた顧客責任のパートナーは、「謝れば金になる」と豪語していた。ちなみに、この顧客責任のパートナーは社内一の稼ぎ頭であった。

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