エッジコンピューティングとデータセンターの姿を示す--電機大手の戦略

國谷武史 (編集部)

2019-09-27 06:00

 あらゆるモノがネットワークに接続される“コネクテッド”の世界が広がる現在、企業では現場から生成される膨大なデータを活用した課題解決や新しい価値創造の取り組みが大きなテーマの1つになっている。大量のデータを集め、分析などから多様な洞察を手に入れ、素早く利用していく。これを効率的に進める「エッジコンピューティング」への関心が高まっている。

 フランスの電機大手Schneider Electricは9月19~20日、エッジコンピューティングをテーマにしたメディアカンファレンス「Life at the Edge」をシンガポールで初開催した。エッジコンピューティングの展望やSchneiderのデータセンター戦略などが紹介されたイベントで、アジアや欧州、アフリカ、中南米などから100人近いテクノロジーメディアの関係者が出席した。本稿ではその模様をレポートする。

 創業180年を超える同社は、100カ国以上で産業分野向けの電機機器やシステム、エネルギー関連ソリューションなどの事業を手掛ける。IT分野では、「APC」ブランドの無停止電源装置(UPS)をはじめとするデータセンター向け製品群が知られるが、エッジコンピューティングを見据えた組織体として「セキュアパワー」事業部門を設立しており、今回のイベントは同事業部門が主催した。Schneider Electric全体に占めるセキュアパワー事業の割合は約14%だという。

Schneider Electric セキュアパワー事業部門エグゼクティブバイスプレジデントのDave Johnson氏
Schneider Electric セキュアパワー事業部門エグゼクティブバイスプレジデントのDave Johnson氏

 カンファレンスの冒頭、セキュアパワー事業部門を統括するエグゼクティブバイスプレジデントのDave Johnson氏は、同事業が1980年代にPCネットワーク向けの電源管理ソリューション(UPS)としてスタートし、1990年代にはデータセンターに拡大、現在はそれをエッジ領域へ広げる段階だと説明した。

 ITが世界的な社会インフラになり、データセンターの電力周りを手掛ける同社にとって、エッジコンピューティングへの対応は自然な流れといえる。Johnson氏は、「電力が失われれば何もできなくなる。集約と分散を繰り返してきたコンピューティングの現在は、ユーザーに近い場所、“エッジ”で生成されるデータが重要になっている。特に商業、産業、通信の3分野でエッジへのニーズが高まっている」と語った。

エッジ領域におけるSchneider Electricのアーキテクチャー。データの発生源からデータセンターまでを接続し、ITや産業システム、エネルギー管理の各領域とも接続される。
エッジ領域におけるSchneider Electricのアーキテクチャー。データの発生源からデータセンターまでを接続し、ITや産業システム、エネルギー管理の各領域とも接続される。

 なおエッジコンピューティングとは、大まかには、データが生成される現場とデータセンターの中間的な部分でデータ処理を行う概念で、具体的な定義は業界や用途、目的などによって異なる。ただ、現場で生成される膨大なデータを従来のオンプレミスあるいはクラウドのデータセンターで直接処理するには効率や時間などの点で無駄が大きく、中間的な部分での処理を併用することで改善を図るのが、エッジコンピューティングの基本的な意義とされる。

 Johnson氏は、エッジコンピューティングが抱える課題として(1)耐障害性が低いこと、(2)遠隔監視が難しいこと、(3)標準化と統合化が進んでいないこと、(4)分散環境における運用管理のリソースが不足していること――の4点を挙げる。まだ新しい概念だが、今後さまざまなエッジコンピューティングの仕組みが具現化していく課程では、あらかじめ把握しておくべき基本的な共通課題になるだろう。

3パターンのエッジコンピューティング

 ゲストスピーカーとして登壇したIDC アソシエートリサーチディレクターのGlen Duncan氏は、エッジコンピューティングが注目される背景に、スマートフォンとオンラインサービスの拡大、データ活用、仮想化やクラウド、人工知能(AI)と機械学習、IoTなどの台頭を挙げた。つまり、ここ十数年におけるITのさまざまなトレンドが結実する形でエッジコンピューティングが登場し、これからの新しいコンピューティング“基盤”になると解説する。

 先述のように、エッジコンピューティングの具体的な定義は多様だが、Duncan氏の見立てでは、データの発生源により近い「パッケージ化されたエンドポイント」、用途特化型の「ライトエッジ」、大規模データセンターも組み入れた統合型の「ヘビーエッジ」の3つに大別される。

エッジに関するデータセンターは、大規模処理を行うクラウドデータセンターのような集中型から店舗や工事現場のような場所に設置する1ラック、ハーフラック規模までカバーされる
エッジに関するデータセンターは、大規模処理を行うクラウドデータセンターのような集中型から店舗や工事現場のような場所に設置する1ラック、ハーフラック規模までカバーされる

 ユースケースとしては、工場の生産ラインなど現場環境の最適化、医療機器や複数の医療機関、電子カルテなどが連携する診療システム、銀行や店舗、オンライン決済などがつながる金融サービスといったように、つながる範囲や提供されるサービスの内容や水準によって必要になるエッジコンピューティングの仕組みや規模は異なってくる。

 Duncan氏は、エッジの多様な実装シーンを見られる代表例として日本を取り上げた。日本では大企業におけるエッジコンピューティングの導入先行が特徴的だといい、日本以外は、欧米では「ヘビーエッジ」志向、アジア太平洋地域では「ライトエッジ」寄りの志向がやや強いとしている。

 なお日本においては、製造業におけるIoTへの取り組みとの関連でエッジコンピューティングに触れられることも多く、Duncan氏による分類では「パッケージ化されたエンドポイント」に当たる。当面は“現場最適”に主眼を置いたエッジコンピューティングの導入が見込まれるものの、将来のグローバル展開やサービスの高度化を見据えれば、海外市場の動きを踏まえたエッジコンピューティングの広がりにも留意しておく必要性がありそうだ。

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